NETFLIXで先週21日(木)から配信が始まったドラマ「三体」を見た。中国のSF作家である劉慈欣の大ヒットSF小説に脚色を加えてドラマ化したものだ。
長らく原作を読もうと思っていたが、動画を見たりゲームをしたりで時間がなく、そうこうしている間にNETFLIXがドラマ化するらしいと知って、「ドラマを見ればいいか」として放置していた。ハードSFでいうと、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は割引で電子書籍を購入したが、それも読めていない。ライアン・ゴズリング主演で映画化が進められていて、今年から撮影開始、来年か再来年には公開になるだろうから、そちらは映画が封切りになる前に読み終えないといけない。
「三体」は英語では「The Three-Body Problem」となっており、天体力学における有名な三体問題からタイトルが取られている。三体問題とは、互いに重力の影響を受ける物体が運動するとき、その軌道がめちゃくちゃ複雑になり、答えが求まらないという問題だ。
ややネタバレになるが、「三体」では恒星が3つあって三重星系となっているケンタウルス座アルファ星系のアルファ・ケンタウリにある惑星がモデルになっているらしい。地球からもっとも近い恒星系で4光年離れた位置にあり、そこの惑星が3つの恒星のせいでカオスな状況にあり、文明が生まれては消滅するということを繰り返していた。
最終的に恒星の軌道が乱れ、3つのうちのどこかの恒星に墜落してしまった場合、惑星の存在は消え、文明は永遠に誕生しなくなる。
その惑星が三体と呼ばれ、その三体星人が光速の1%の速度で450年かけて地球にやって来ようとし、地球人がそれを迎え撃つという話だ。
中国の文化大革命の時代、中国の異星人交信プログラムに参加していた天文物理学者だった中国人の女が最初に三体星人と交信し、地球の位置を知られてしまう。
中国の小説なので、基本的に原作では中国の話として進むのだが、NETFLIX版では多少変更され、イギリスと中国での話が進むようになっている。
「三体」は中国のテンセントが制作したドラマもある。WOWOWで放送され、現在はU-NEXTやHuluで配信されているが、1時間放送枠(45分程度)が30話の長尺になっている。
三部作の第一部と第二部の最初がちょっと入ったのがNETFLIXで1時間8話。中国版は原作に忠実に作られているらしいが、45分30話はいくらなんでも長すぎる。中国や台湾は100話200話のドラマが普通にあるので、30話なんかなんでもないのだろう。
NETFLIX版では、ドラマ冒頭が文化大革命のときに精華大学で起こった百日戦争のシーンで、知識人である物理学者が紅衛兵に吊るし上げられ、ボコボコにされて死ぬ。その物理学者が殺される様子を見ていたのが、のちに三体星人と交信することになる娘だった。
中国版ドラマでは、この文革シーンが出てこない。原作ではSF雑誌に連載された当初はNETFLIX版ドラマのように冒頭が文革時代の粛清だったが、書籍が発行される際に物語の途中にこっそり入る感じに修正されたらしい。
これについて、福島香織という元産経新聞記者がJBpressに記事を書いていた。
【JBpress】ネトフリ版『三体』に中国の愛国ネット民が噛みつくワケ…文化大革命の残虐シーンが冒頭5分で描かれた真意とは (2024/03/29)
それによると、連載が開始された2006年は胡錦濤が国家主席、温家宝が首相だった時代で、文革を批判的に取り上げることは問題なかった。
2008年頃には文革と同じような粛清政治を行う薄熙来が重慶などで広がっており、習近平が国家主席になって以降は文革批判は完全に禁止された。そのため、小説で文革シーンは目立たないように変更され、中国版ドラマではおそらくあったが、編集で全カットになったようだ。
習近平は文革について一定の評価をしており、自身が毛沢東のような独裁者になることにご執心だ。
だから「三体」のドラマで原作にあるような文革をネガティブに描いたシーンは中国のドラマに加えられない。ひとりの政治指導者の意向がドラマにも反映される国が中国なのであろう。
NETFLIX版の「三体」が面白かったので、中国版にも興味が湧いたが、30話もあることと、いくら原作に忠実とはいえ、いろんな政治的な思惑が働いていることを思うと、見なくていいかと思えてきた。
とにかく続きが気になるが、NETFLIX版「三体」のシーズン2、シーズン3は作られるかどうか分からず、配信されるにしてもいつになるか分からない。第一部が文庫で出て、第二部、第三部もすぐに文庫で出るからそれを買うか、電子書籍を買って読んだ方がよさそうに思えてきた。
世界でもっとも遅く2019年に「三体」が翻訳された日本版は、なかなかいい翻訳に仕上がっているらしい。とりあえず「プロジェクト・ヘイル・メアリー」をさっさと読んで、「三体」も読むようにしよう。