15日(金)の仕事帰り、大阪駅の10番ホームと11番ホームにめちゃくちゃ大勢の人がいた。カメラを持っている人が多かったので、いわゆる撮り鉄と呼ばれる鉄オタが集まっていたようだ。
たまに駅のホームでカメラを持っている鉄オタを見かけるが、なにを撮るために待ち構えているか分からない。撮影している電車を見ても、なにが特別なのかまったく分からない。大阪駅に集まっていた鉄オタの目的も不明だが、16日(土)からのダイヤ改正で15日はなんらかの電車のラストランだった可能性が高い。大阪駅の10番ホーム、11番ホームは特急電車が停車するホームで、なんとなく北陸行き特急の「サンダーバード」「しらさぎ」関連のような気がした。
だが、調べてみると16日から北陸新幹線が敦賀まで延伸しても、「サンダーバード」や「しらさぎ」が廃止になるわけではないらしい。ただ、金沢発着が廃止になり、敦賀止まりになるようで、もしかすると最後の金沢行きの「サンダーバード」だか「しらさぎ」だかを撮影するためだったのだろうか。
私は鉄道や飛行機が好きではあるが、あくまでも移動手段として好きなだけであって、意味もなく単に乗りたいと思ったことなど一度もない。写真に収めたいと思ったことももちろんない。
鉄オタには、乗りたい人、写真を撮りたい人、走る音を聞きたい人、ダイヤを眺めたい人など多種多様で興味深い。まあ自分が鉄オタになることはないと思うが。
そんな鉄オタを主人公にした漫画がいろいろあるが、唯一読んでいるのがビッグコミックオリジナル連載の「テツぼん」だ。鉄オタのフリーターだった主人公が、国会議員だった父が急逝したことで後釜に据えられ、地盤を引き継いで立候補したら当選してしまい、鉄オタであることを隠して国会議員をやるという漫画だ。アニメ化された「ツヨシしっかりしなさい」で知られる永松潔の作品である。
鉄道の政治がテーマで、主人公の仙露鉄男は父親と同じく与党の道路族の派閥に属している。派閥としては道路行政を進めていきたいのだが、国土交通政務官となった仙露鉄男は鉄オタの知識を活かして鉄道の発展を模索する。とはいえ、鉄オタなので地方視察の目的は単に各地の電車に乗ったり、鉄道関連の施設を見て回りたいだけなのだが。
その「テツぼん」の連載で、昨年に私が住む滋賀編があった。滋賀編は北陸新幹線がテーマだった。そこで問題として取り上げられたのが、北陸新幹線の敦賀からの延伸についてだ。
仙露鉄男が所属する派閥では、敦賀から京都を結ぶルートを推進し、実際にそうなるようにたが、滋賀の議員が米原ルートに変更しようと模索していた。
仙露鉄男は滋賀の有権者に向けた演説で、派閥の意向は関係なしに、京都ルートでも米原ルートでもない、別の提案をしていた。
現在、東海道新幹線のダイヤが過密状態で、米原に延伸しても北陸新幹線の米原からの乗り入れは難しい。乗り換えしかないが、新たに新幹線の線路を新設するのでは工期も費用もかかる。
そこで、東北新幹線で採用されているように在来線を走るミニ新幹線の方式にすればいいと提案していた。
普通鉄道は狭軌と呼ばれる幅が短いレールで、新幹線は標準軌と呼ばれるレールであるが、三線軌条という両方が混在できるレールにすれば解決する。
仙露鉄男は東日本大震災で東北への鉄道輸送が滞ったことを踏まえ、東海道新幹線がトラブルに見舞われたときの代替輸送路として北陸新幹線の京都・大阪方面への延伸をすぐに進めるよう、工期が短く、費用も安いミニ新幹線方式を提案していた。派閥の意向にそぐわないだけでなく、滋賀の議員の鉄道利権も吹き飛んでしまう提案で、どちらからも目の敵にされてしまうが、現実的な提案ではある。
とりあえず北陸新幹線は東京から上信越、北陸を通って敦賀まで開通したが、問題はそこから最終地点の大阪までどうつなぐかだ。
2017年に小浜を経由して敦賀と京都をつなぎ、京都からは松井山手経由で新大阪までつなぐことになっているが、路線の大半は地下40メートル以上の大深度地下と呼ばれる地下トンネルになる。2017年の試算では2.1兆円だったが、現時点で4兆円を超すと見られる。
工期は15年で、2046年の完成予定だ。あのリニア中央新幹線の東京-大阪間の開業予定が2045年なので、それよりも遅い。名古屋-大阪間の当初の建設費が3兆6000億円とされていて、同じように値上がりしていると考えると今は7兆円くらいかも知れないが、そうだったとしても、北陸新幹線の敦賀と大阪を結ぶ路線のコスパは悪すぎないか。
私が滋賀県民だからというわけではないが、北陸新幹線は米原に接続するのが一番いいように思えてならない。京都ルートと比較し、工期15年が10年になり、費用も4分の1に。
「テツぼん」にあったが、新幹線の米原駅は北陸への延伸を見据えて線路やホームを増やせるようになっている。在来線と共有するミニ新幹線がいいか分からないし、滋賀県民でもほとんど利用しない米原駅での乗り換えなんか不便で仕方がないが、北陸新幹線の需要や京都の環境への影響、費用負担を考えると、敦賀から京都はもちろん、その先の大阪まで伸ばして意味あるのかと思えてならない。
2017年の時点で費用便益比(B/C)が1.1しかなかったものが、今や1を大きく割り込んでいる。それに対して米原ルートはB/Cが2くらいあるとされている。
京都新聞も16日(土)の社説で京都ルートを見直して、現実的な米原ルートにするよう主張していた。だが、米原ルートにすると新幹線の路線がなくなるJR西日本にはうまみがなくなり、必ず反対するだろうとされている。米原ルートになると滋賀県の負担が多くなるが、それがもっとも現実的に思える。
京都ルートの場合、「サンダーバード」が走るJR湖西線が新幹線の並行在来線扱いとなり、JRから切り離されて第三セクターへの移管せねばならないため、滋賀県が猛烈に反対している。京都を走る新幹線のせいで滋賀の路線が並行在来線となるのはどう考えてもおかしいが、条件的にはそうなってしまう。
湖西線がJRから経営分離されて第三セクターになったら、ダイヤの本数が大幅減、運賃値上げは間違いない。大津市の湖西線沿線で新築マンションの分譲が行われているが、今から湖西線沿線の一戸建てやマンションを買う人は、そのリスクを分かっているのかと思う。
かといって、米原ルートになった場合、北陸本線が並行在来線になってしまうため、福井県は米原ルートを強固に反対している。滋賀県も北陸新幹線の京都ルートはデメリットがあまりにも多いため、湖西線沿線の大津市などを中心に湖西線の並行在来線化に反対している。
並行在来線としてJRの路線が経営分離されるのは周辺自治体の同意が必要とされているが、実際はどうなるか分からない。
北陸新幹線が敦賀まで延伸されてお祝いムードだが、問題はその先の京都、大阪までどうやってつなぐかだ。特に敦賀から京都の接続については問題だらけに思える。
金だけの問題ではなく、並行在来線の問題も大きいし、大深度地下の影響が読みにくい環境アセスメントの問題もある。一番いいのは米原ルートだと思うが、JR東海もJR西日本も反対し、京都ルートを決めた議員や関係者の利権などもあって変更は難しいのだろう。
誰のための北陸新幹線かと思うが、利用者や沿線住民のことなんかどうでもいいに違いない。
北陸新幹線のことを調べれば調べるほど白けてしまう。いっそのこと、このまま敦賀を終点にしてもいいのかも知れない。