サッカーW杯アジア2次予選で、日本は北朝鮮と3月21日(木)にホーム、26日(火)にアウェイで対戦することになっている。
女子の予選では北朝鮮での試合が行われずにサウジアラビアでの試合になったが、男子は平壌での開催となるらしい。次の平壌での試合は、テレビ中継がないそうだ。北朝鮮へ経済制裁中であるため、中継の放映権を持つ北朝鮮側に金銭を渡して中継させてもらうということができないのだ。
どういう状況なのか国民に知られないまま、日本代表は試合をせねばならない。
日本は北朝鮮での試合で過去4戦、2分2敗となっており、未勝利だけでなく1点も取れていない。
前回は13年前、2011年11月だった。このとき、日本代表選手だというのに入国審査で空調のない場所に5時間缶詰めにされ、体調を崩す選手もいたという。
特にハーフナー・マイクが「本当に日本人なのか」と執拗に取り調べを受けていた。代表選手の素性など調べれば一発で分かるだろうし、なにより日本代表が不正に北朝鮮に入ってなにかするわけがない。にも関わらず、嫌がらせのために難癖をつけられ、一部の選手は長時間立たされるなどした。
今日発表された代表メンバーには、アジア杯で正ゴールキーパーを務めていた鈴木彩艶がいる。見た目が黒人であるが、13年前のハーフナー・マイクと同じことになるかも知れない。
日本代表が北朝鮮での試合に弱いのには、日本人サポーターがほぼいない完全アウェイの状態であるのも関係しているだろう。
中東や中央アジアといったおよそ観光では行かないような国の試合でも、代表を応援するためのサポーターが数百人はかけつけており、現地サポーターに応援の声量で負けていても、日本代表の応援が現場でも行われているのは中継を見れば分かる。
13年前、サッカー日本代表の応援に熱を上げていた私の父親が北朝鮮に渡航していた。現地で応援するはずだったが、日本人サポーターが座るスタンドには日本人数人ごとに間に北朝鮮の私服の公安みたいなのがいて、周囲を厳しく監視していたらしい。声を出すのもダメ、立ち上がるのもダメ。大声を出したり、立ち上がろうとしようものなら、その公安のようなヤツに朝鮮語でなにかボロカスに言われ、座らされる。黙ってじっと座っていなければならなかったという。
ついでにいうと、試合の翌日に日本人サポーターらは北朝鮮当局が指定する場所に強制で観光に連れて行かれたらしい。父親が土産物屋で北朝鮮の国旗のピンバッチを買っていたが、実に粗末な作りのピンバッチで、ピンバッチすらマトモに作れないのが北朝鮮だというのがよく分かった。
私の父はその北朝鮮観戦ツアーから予定どおり帰ってこなかった。連絡が取れなくなっていて、北朝鮮で死んだのかと思ったら、ツアー会社から私の母親に連絡があり、体調が著しく悪化したため、韓国の仁川国際空港に置いてきたという。
父は予定より1日遅れてどうにか関空まで戻ってきて、母が関空まで迎えに行っていた。北朝鮮で心臓の調子がかなり悪くなり、マトモに動くこともままならなかったらしい。
ただ、北朝鮮でぶっ倒れるわけにもいかないし、1回目の乗り継ぎの中国で病院に行きたくない。どうにか根性で中国から2回目の乗り継ぎ地点である韓国まで飛行機で移動して、そこでぶっ倒れて医務室の世話になった。
韓国で医師の手当てを受け、薬も貰っていた。韓国人の医師が日本人にも分かるよう、ハングルで書かれた薬の紙袋に手書きの繁体字で「藥」と親切に書いてくれていた。この韓国人医師が診てくれていなかったら父親は北朝鮮のサッカー観戦後に韓国の空港で死んでいたかも知れない。
北朝鮮で一般人に薬でも盛っていたのかと思ったが、実際はそうではなかった。指定難病の心臓サルコイドーシスだった。心臓サルコイドーシスはかなり珍しい病気で国の研究対象になっているとかどうとかで、治療費が無料になり、父は心臓に小型のAEDを埋め込んでいた。外見では分からないが、アイアンマンみたいなもんである。
結局、父はその3年後に食道癌で死んでしまうが、北朝鮮で死んだりしなくてよかった。
国家代表のサッカー選手が入境するだけでも大変なのに、北朝鮮から死体を冷凍保存で持って帰ることなど不可能だろう。現地で火葬するにしても、遺族として入境できるか分からない。現地で火葬を任せたら、他人の骨を送り付けてくるかも知れない。
なんで北朝鮮のようなクソみたいな場所でサッカーの国際試合をせねばならないのか。AFCの決定であるが、本当に最悪である。
今度はサポーターが行くことはないとは思うが、行かねばならない選手やスタッフになにもなければいいのだが。