少し前に、AmazonのKindleストアで電子書籍のポイント還元セールをやっていた。小説や漫画など多くの電子書籍が、販売価格の50%をポイントで還元されるようになっていた。
キャンペーン中に、桜玉吉という漫画家の漫画を購入した。桜玉吉は自分の身の回りの日常を漫画にする漫画家で、エッセイ漫画家の先駆けのような人だが、長らく鬱病を患って漫画を描けない状態になっていた。
復活を諦めていたのだが、いつの間にか新刊が出ていたのでKindleストアで迷わず購入した。
それを読んでみると、鬱で仕事が手につかず、貯金も底をつき、集めていたフィギュアやレコードなどをヤフオクに出して糊口を凌いでいたらしかったが、東日本大震災を契機に外に出られるようになり、徐々に漫画も描けるようになったのだという。
最近、小説家の柳美里も鬱になって酷い貧乏に困っていると告白していたが、漫画家や小説家が鬱になると大変そうである。
桜玉吉の場合、「月刊コミックビーム」で連載していた「御緩漫玉日記」の頃から元々患っていた鬱が急激に悪化していき、次第に作画が崩壊して、内容もすごいことになっていった。「別人格の自分が漫画を描くことがある」と主張するようになり、漫画の原稿を全部消してしまうこともあったのだという。
こんな状態の漫画家を支えたのが「月刊コミックビーム」の奥村勝彦という編集長だ。旧知の友人とはいえ、鬱全開で漫画の打ち切りが決まってからもできる範囲での仕事を与え、桜玉吉が鬱から回復するのを看取り、回復後も不定期連載という形で復活させた。
「御緩漫玉日記」でひとりの漫画家が鬱で崩壊していく過程を少しずつ読んでいくのは本当に辛かった。桜玉吉が好きからという理由からでなく、私も鬱を経験しており、おかしくなっていく様子が自分を不安にさせるからである。
私の場合は桜玉吉のような重度の鬱ではなく軽度の鬱で、過換気症候群や予期不安を催す不安症という症状から来るパニック障害だった。
鬱のさわりを体験したようなもんだが、それでも鬱がどんなものなのか想像できるようになったし、そのおかげで鬱の苦しみも大体分かるようになった。だから、まるで転げ落ちるように鬱病の渦の中に巻き込まれていく漫画家のようすが描かれた漫画を読むのがしんどく感じたのだ。
そんなことがあったので、人の悩みや苦しみなんぞは実際に体験してみないと分からないということが痛いほど理解できた。
世の中には家族のことや病気のことで深く悩んだり、苦しんでいる人が大勢いるが、その人たちの気持ちなど簡単に理解できるわけがない。癌患者の苦しみは、癌になってみないと分からないだろう。
ほかにも同じようなことが言えて、例えばイジメを受けている子供がどれだけ悩んだり苦しだりしているかは、私はイジメを受けたことがなかったので分からないし、理解できるとも思えない。イジメに悩んですぐに自殺してしまう子供がいるが、それをイジメを受けたことがない大人があれこれ考察しても分かるわけがないと思う。
だから、イジメをする側に「イジメられる子の身になってみろ」などという説教をしたところで、子供が理解できるわけないのだ。イジメをしている方がイジメを受けている方がどう思っているかなど想像できるわけがない。
それでも、人間であれば相手がどう思うかを考えるように努め、極力相手に嫌な思いをさせないようにするものであるが、それができないヤツが世の中にはたくさんいる。
人種差別とか宗教差別とかがなくならないのも当然のことのように思える。
世の中の多くの人は、人の痛みなぞ知らないし、どう思われるかなど気にしないのだ。逆の立場になってみて、初めてそれに気が付くのかも知れない。
昨年、エボラ出血熱がアフリカで爆発的に広まって世界的な騒動になったとき、アフリカから遠く離れた韓国でもエボラ禍ともいえるような騒動がいろいろ起きていた。
そのなかでも象徴的だったのが、釜山の国際会議に出席する予定だったリベリア、ギニア、シエラレオネの3か国に韓国が参加自粛を要請し、その3か国が参加を中止せざるを得ない状況に追い込まれた。
ソウルで開かれた国際会議に参加予定だったナイジェリアの女子学生3人がナイジェリア国籍というだけで検疫などを受けたにも関わらず入国を拒否された。彼女らは「国連人権委員会に提訴する」と怒り心頭だった。
それ以外にも、ソウルでエボラ出血熱流行という理由でアフリカ系黒人の入店を拒否する飲食店が出てくるなど、どう考えてもアフリカの黒人差別にしか見えない対応を韓国はしていた。
そのことが国際的な問題になっても、韓国は「アフリカからエボラ出血熱が入ってきたら誰が責任を取るのか」と自らを正当化し、無知から来る対応が問題ないと強弁していた。
アフリカ系黒人というだけで、エボラ出血熱のキャリアであるかのように見なし、バイ菌扱いされた人たちがどう思うかなど想像できないし、考えもしないのだ。
それが今になって、立場がまったく逆転してしまった。
MERS(中東呼吸器症候群)が大流行し、今やこれまで患者数がもっとも多かったサウジアラビアよりもMERS患者が増えてしまうほどになってしまった韓国が、これまで自分たちが空港などでやって来た他国の人間をバイ菌扱いする行為を逆にやられるようになってしまった。
中国の空港で検疫が強化され、韓国人全員が防護服を着た職員らに取り調べられたことについて、韓国が「差別的だ」と怒っている。
自分たちが散々やってきたくせに、どの口でそれを言うのかと思うわけだが、不躾で差別的対応を取られればどう思うか理解できるようになっただろうか。
かの国は自分たちは無謬の存在で、他国が間違っていると思いがちなので、今回も「中国は未開な国だから」などのひと言で済まされ、何も変わらない可能性の方が高いと思う。