20141130-1

台湾で29日(土)に投開票が行われた統一地方選挙で、与党国民党が台湾の新聞に「1949年以降最大の惨敗」と称されるほどの大敗を喫した。
与党国民党は15の市や県の首長を送り出してきたが、今回はそれを9つも失い、新北市など6つの市や県でしか首長の座を保持できなかった。

国民党惨敗の象徴とされるのが、台北市で無所属の議員に敗れたことである。実質的に最大野党の民進党から推薦されていた無所属の柯文哲が当選した。国民党大物政治家の連戦の息子である連勝文は破れてしまった。台北で無所属の議員が市長になることは史上初めてだそうだ。
何が何でも台北市長の座を明け渡せない国民党は、野党が後押しする候補について「戦時中に財産を貯めた親日家の子孫だ」などと虚偽のバッシングを行ったが、それも功を奏さなかった。

今回の国民党の敗北は、最初から予想されていた。支持率が名前にちなんで9%しなかない馬英九総統が中国へあまりにも擦り寄りすぎたせいで、国民の不満が爆発した。
学生らがサービス貿易協定に反対し、立法院に押し入って立て籠もったことは記憶に新しい。

国民党は、統一地方選に先駆け、テレビCMを打っていた。韓国が中国と中韓FTAを締結し、うまくやっていくなか台湾が自滅し、韓国人が「ありがとう」などと言うCMだ。
中国との経済的な結びつきを強くしないと、韓国にこう言われることになると国民に警鐘を鳴らすCMだったつもりが、かなりの不評を買っていた。国民党は根っからの大陸寄りの連中であると。

前回の台湾の総統選挙では、民進党が主張する独立を進めると、中国との関係が悪くなり、経済的に問題が出てくることを心配した台湾の人々が馬英九に投票し、2期連続で当選することができたが、2年後に控える次の総統選は、国民党は相当苦戦することは間違いなさそうだ。

台湾人たちは、中国との結びつきが強くなればなるほど、悪い面が相当増えることに気が付いた。中国から仕事を恵んで貰えればいいと思っていた人でも、サービス貿易協定などで中国人が台湾にどっと押し寄せ、台湾のなかでも自分たちの仕事を奪っていくことに気が付いた。
中国寄りのメディアによる目に余る中国推しにも辟易していた。

中国は、台湾の経済を疲弊させるだけでなく、文化まで奪っていくことにも多くの人が気が付いている。
その典型的な例が、先日行われた金馬奨だろう。

金馬奨は、台湾のアカデミー賞とも呼ばれる映画賞であるが、近年は台湾に限らず、中国やシンガポールなど、中国語圏の映画全般が評価の対象になっていて、審査員もそれらの国から選ばれている。

第51回を迎えた今年は、もっとも期待されていたのが台湾で大ヒットした「KANO」である。
日本統治時代、日本人監督を迎えた嘉義農林学校が漢族、原住民、日本人の混成チームで台湾代表として甲子園に出場し、準優勝するまでの実話を描いた映画だ。監督役で主演したのは永瀬正敏である。
台湾で今年2月に公開されて大ヒットし、9月にリバイバル上映もされ、さらに12月にかけても再度リバイバル上映が決まった。

「KANO」は6部門にノミネートされて期待されたが、結局は無冠に終わってしまった。保守系の自由時報が報じるところによると、かねてから「親日的すぎる」として「KANO」を批判していた中国政府は、金馬奨に関する報道で「KANO」について中国国内で報じることを禁止した。審査委員のなかには中国出身の人物もいて、委員が中国に配慮して「KANO」を無冠にしたのではないかとインターネットで騒ぎになった。

金馬奨の前日、一般投票で「KANO」は1位に選ばれており、観客賞と国際批評家連盟賞を受賞していた。それが、いざ本番になるとまるで存在していなかったかのように無冠なのである。
台湾の人々が訝るのもムリはない。

「KANO」をプロデュースした魏徳聖は、「海角七号 君想う、国境の南」(2008年)と「セデック・バレ」(2011年)という、いずれも日本統治時代の映画を監督したことがある。
特に「海角七号」は台湾映画のなかで興行収入1位に輝いている映画で、全映画のなかでも、台湾では「タイタニック」に次ぐ歴代2位の興収を得るほどヒットした。
その「海角七号」も、公開当時に中国から盛大な批判を受けた。日本統治時代、赴任してきた日本人教師と教え子が恋に落ち、結ばれぬまま60年が経った台湾が舞台の話で、中国はこれも「親日的すぎる」と批判していた。

6年前の金馬奨は、中国に毒されていなかったため、「海角七号」は6部門で賞を獲得した。
だが、同じ人物が制作に携わり、同じようにヒットし、同じように中国に「親日的すぎる」と批判された「KANO」は無冠だった。

中国の影響がこんなところにも出てきている。それに敏感にならない方がおかしいわけで、台湾人の心配はよく理解できる。

中国に擦り寄るバカな国もあるわけだが、台湾はそんなもんに流されず、一定の距離を置いて中国と付き合うようにして貰いたい。
台湾人のアイデンティティが失われることは、日本にとっても損失なのである。