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Androidスマホのみならず、iPhoneでもGoogleアプリの設定で「ロケーション履歴」というのを有効にしていると、GPSによる位置情報が自分のGoogleアカウントに紐付けされて記録されるようになる。
位置情報の履歴が残ることによって、自分がスマホを持ってどう移動したかをGoogleロケーション履歴のサービスで確認することができる。

Googleに自分がどこにいたのか知られることを「プライバシーの侵害だ」とか考える人や、嫁さんに浮気などがバレたくない人は機能を無効にすればいいが、私は有効にしたままでたまにGoogleマップを見て確認したりしている。
毎日の通勤ルートを確認しても面白くないが、旅行やドライブに行ったときの軌跡を確認すると面白いし、いろいろ思い出すことになる。

例えば、台湾旅行に行った2014年12月12日(金)はこんな感じだった。台北から台灣高鐵(台湾高速鉄道)に乗って台南まで行き、ローカル鉄道に乗り継いで台南市街で買い物をした。
台北から台南までのルートは、台灣高鐵の線路とほぼ合う。位置情報はGPSをうまく捉えきれずにWi-Fi情報に頼ってとんでもなくズレることもあるので、ズレたまま記録されているところもあるが、おおよそ正確である。

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朝に台北を出て、日が暮れた頃に台南を出た。1日でさっと行ってさっと帰ってきたわけで、高速鉄道があったからできたことだ。
台灣高鐵ができる2007年より前は、台北から台南に行こうと思ったら、ローカル線か高速バスでちんたら行くか、割高な飛行機を使うしかなかった。台灣高鐵は外国人観光客向けに乗り放題チケットを格安販売しており、それを買えば割安、かつ高速に南北を移動できるのだ。

台灣高鐵は欧州の高速鉄道システムが導入される予定だったが、台湾中部地震を機に地震に強い日本の新幹線が再評価され、車両は日本の700系を元に台湾仕様で作られた700Tが使われている。そのため、台灣高鐵に乗ると、日本の新幹線と作りがほぼ同じなので親近感が湧く。
ところが、券売機のシステムなどは欧州製であるため、めちゃくちゃ使いにくい。指定席を取るのに窓側・通路側といった座席の指定ができず、お釣りが札で出てこなくて、どんな金額だろうが全部ジャリ銭で出てくるという利用客に優しくないシステムだ。
そこらへん、「画竜点睛を欠く」といった感じで非常に惜しい。

日本が世界に自慢できる新幹線は、これまでの海外への輸出実績は台湾しかなかった。
だが、安倍政権になって高速鉄道の売り込みに特に力を入れたことが奏功し、ついにタイで新幹線導入を前提にタイ国内の調査を開始するという覚書を日本とタイで取り交わした。バンコクとチェンマイ間を結ぶ670キロの路線で、日本と同様の新幹線専用の線路を敷く。総工費は1兆円超の規模になるという。
日本側は車両、線路、運行システムをセットで売り込む考えであるという。当然だ。台灣高鐵のヘボいシステムを見ると、よその国とのチャンポンになるとロクなことにならない。

タイの高速鉄道については、中国と熾烈な争いをしていた。中国は低金利でカネを貸し付けるとか、返済は米でも構わないとか、とにかく安売りすることでタイの気を引こうとしていたが、最終的にタイは開業以来50年乗客の死亡事故がゼロで、自然災害にも強い日本の新幹線を選んだ。極めて賢明である。
パクリ技術で安売りが目玉の中国の高速鉄道は、スピードだけは出せるものの、雷が落ちただけで車両が追突事故を起こし、高架から転落するような鉄道なのだから、国民の命を大切に思っていない国以外は導入すべきではない。
これから、インドネシアやインドといった国でも高速鉄道事業が予定されている。タイの勢いそのままに、他国も日本勢で取って行きたいものである。

ところで、アジアの国々の高速鉄道で問題なのが資金の問題である。タイでは建設費の一部を日本が援助する見通しだが、それでも1兆円もするような事業は、アジアの国々の財政に重くのしかかってくる。
それは先に新幹線の導入を決めた台湾でも同じだ。

台湾の場合、高速鉄道を民間事業として運営し、35年という超短期間で建設資産を回収して台湾当局に移管するというBOT方式が採用された。台灣高鐵は1兆7200億円の夫妻を抱えた状態で経営が始まったが、最初から減価償却や利払いが大きな負担だった。

台灣高鐵は短期間で大きな利益を上げるつもりで、市場より高い金利で融資を受けていた。また、利用客も1日30万人と見込んでいた。
だが蓋を開けてみれば、鉄道の営業利益率は悪くなく毎期黒字経営であるものの、毎年増えてはいるが利用客が思ったほど伸びず1日13万人にとどまっている。人口が5倍の日本で、東京・新大阪間の東海道新幹線が1日40万人なのだから、当初の30万人という見込みが楽観的過ぎたのだ。

また、高鐵の駅周辺の開発も遅々として進んでいない。台灣高鐵・台南駅の周辺には何もなく、鬱蒼とした森のような光景が広がっていた。途中にとまった台中にも何もなかった。仕事でよく使う新竹の駅も周りに何もない。栄えているのは、遠く離れたローカル線の駅の方だ。
台灣高鐵の駅は市街地から離れているが、開発が行われることで市街地化させ、「街の中心から遠い」というイメージを変えさせようとしていたが、現時点では「不便な場所にある駅」でしかない。

台灣高鐵は、利用客数も融資の返済も駅周辺開発も何もかも見込み違いだったのだ。
このままでは、黒字経営であるものの、投資に見合った利益を確保するまでには至らず、債務不履行で経営破綻待ったなしの状況だ。

日本の新幹線技術となんら関係のない問題なのだが、「台湾で高速鉄道の利用が振るわず、経営危機に陥った」と他国から単純に見られかねず、新幹線のイメージ悪化に繋がる恐れがある。
実際は、日本は車両だけで、運行システムはドイツやフランス、路線の建設工事は李明博が社長だったときの現代建設だった。ついでにいうと、現代建設の手抜き工事が発覚し、台灣高鐵は営業時期をずらさざるを得ない状況に追い込まれたこともあった。

それでもたった8年で台湾がこんなことになってしまうと、「高いカネを出して日本の新幹線を導入すると、いずれ台湾のようになってしまう」と思われ、財政負担が少なく済む中国の高速鉄道が勢いを増す可能性がある。中国側がそんなことを言いふらす可能性もある。

台湾政府はなんとか財務改善案をまとめて破綻回避を模索しているが、無能な馬英九政権下では遅々として進んでない。「台湾政府は高鐵を財政破綻させた上で、安値で接収しようとしているのではないか」という見方もある。
日本としては、なんとしても台灣高鐵の経営破綻は避けたいところであるが、日本がカネを出したりするわけにもいかないし、口を挟むわけにもいかない。なんとか台湾に頑張って貰うしかないのである。
タイで新幹線が導入されると喜んでいる場合ではない。成功例とされた台湾で失敗が起きようとしているのだ。