20160322-1

死んだ私の父親は心臓病を患っていて、たまに不整脈が出ていた。前回のサッカーW杯の最終予選で、日本代表が平壌で試合を行うことになって観戦しに行ったのだが、その平壌で心臓の具合が悪くなった。そのときはまだ心臓に問題があることが分かっていなかった。
「平壌で倒れるわけにはいかない」として中国まで粘ったわけだが、「中国でも倒れられない」として韓国の仁川国際空港まで気合いで辿り着き、空港の医療施設にかかった。

賢明な判断だったと思うわけだが、日本代表の観戦ツアー専門の旅行社から父が韓国からの「航空便に搭乗していない」と実家に連絡があってちょっとした騒ぎになった。
父の知り合いは仁川国際空港から羽田だか成田だか東京方面に向かうので別の便に乗ったのだが、韓国までは来ていたことは分かっていたので、まあなんとかなるだろうとは思っていた。

実際、父は空港の医療施設で点滴を打って一晩過ごし、薬を処方されて帰国の途に就いた。薬が入った紙袋はハングル表記のみだったが、担当した医師がそれなりの年齢のインテリだったので、漢字を書くことができて、繁体字で「藥」と書いてあった。
医療費も確かかからなかったはずである。

韓国は嫌いな国であるが、その件については韓国人に大いに感謝している。父から「仁川国際空港はやたら大きい」と聞いていたので、よほどすごい空港なのだと思っていた。
先日、実際に行ってみるまでは。

仁川国際空港は国際空港評議会の評価で2004年から2013年まで9年連続で「世界最優秀空港賞」を受賞し、世界ナンバーワンの空港だと言われていたのだが、ここ数年はそうでもないらしい。
サービスのみならず、アジアのハブ空港として自慢だった乗り換え率(トランジットの率)も急落しているという。北京や上海、成田、国際空港化が進んだ羽田に客をずいぶん奪われたそうだ。

利用客が減っても、仁川国際空港を使う客にとっては空いているから寧ろメリットのように感じるのだが、客目線からのサービスという観点でも実際には大したことがなかった。
ここ何年かで利用した国際空港は関空、台湾の桃園、韓国の仁川の3つだけなのでこれ以外は知らないが、空港の利便性ではこの3つのなかで一番下に思える。

昔は自慢だった無料のWi-Fiも、今や当たり前になってしまった。関空のフリーWi-Fiに繋いで速度を測ったら40Mbps以上出て「メチャクチャ早い」と感心したもんだが、仁川は2~3Mbps程度だった。

キレイさ加減も大したことがなかった。空港はトイレを見れば程度が分かるように思うが、トイレがキレイではない。大をする方の便座も全然ダメ。これに比べると関空がメチャクチャよく思えるほどだ。

また、空港内が大きいと聞いていたが、大きいのは保安検査場より向こう側の免税店や搭乗口がある方だけで、空港の施設自体はそれほどでもなかった。
飲食店は少なめだし、買い物を楽しめるような店も少なかった。関空の場合、土産物屋がたくさんあるし、本屋やコンビニも複数ある。ダイソーまで入っていて、時間潰しでも意外と楽しめる。
韓国でなにもないド田舎の町にいても仕方がないから、早めに出てチェックインまでの2時間くらいある時間を空港でブラブラしようと思っていたのだが、時間を持て余しまくってしまった。

そしてなにより最悪なのが、保安検査場を抜けたあとの免税店エリアである。

喉が乾いていたので水を買いたかったのだが、自動販売機がない。韓国で自動販売機自体を見かけなかったのだが、空港にもないのではないか。関空にも桃園にも普通に自動販売機がある。
仕方がないのでカフェのようなところで売っていた水のペットボトルを買ったのだが、コンビニで50円くらいで売っているものが90円のボッタクリ価格だった。関空も桃園も、空港内外で自販機の飲料の値段は変わらないのだが。

水はまだガマンできるが、一番最悪だったのが免税店である。そもそも、韓国でお土産に買って帰りたいものなどないのだが、それでも時間を持て余すので免税店でブラブラしたくなる。
私の場合、出張先の近くのスーパーで韓国のりとコチュジャンを計1500円分くらい買ったので十分だったので、本当に見るだけでよかったのだが、免税店にはオバチャンの店員が本当に山ほどいて、メチャクチャ話しかけてくる。ちょっと目線を移したら、あれがいいこれがいいと勧めて来て、本当にウザかった。店員のことをこれほど心底ウザいと思ったことはこれまで一度もなかった。

しかも、私がスーパーで400円くらいで買った韓国のりと同じものが15ドルで売られていた。ボッタクリすぎやしないか。
「なんか土産を買って帰る」と言っていた後輩社員は、独身のひとり暮らしなのにチョコレートを4千円分も買わされていた。店員のオバチャンの押しが猛烈に強く、「3個買ったら1個サービス」と言われて買ってしまっていた。
チョコレートみたいなどこにでもあるようなものを4千円分も買うなんてアホである。

ハッキリ言って、ここまで鬱陶しい免税店がこの世に存在するとは思わなかった。
いつも桃園ではのんびり眺めて、ちょっと小洒落た文房具などを買ったりしていた。酒を売っている免税店以外の店員はほとんど話しかけてこないので、ゆっくり見ることができた。それが免税店だと思っていたのに、仁川の免税店はなんなのか。

そんな仁川国際空港の免税店であるが、アメリカのビジネス旅行向け専門雑誌の「ビジネス・トラベラー」で、4年連続で「世界最高の免税店賞」なるものを受賞しているらしい。
どこらへんが世界最高なのかまったく理解できない。免税店以外ならまだ評価できるかも知れないが、免税店だけは世界最高ではない。しょーもない土産と、鬱陶しい店員ばかりではないか。
これの一体なにを評価したというのか。こういう評価はカネで買ったりすることができるに違いない。