20170709-1

日本のアニメは政府が推す「クールジャパン」の一角を担う重要なジャンルであるにも関わらず、その先行きが危ういと言われている。
テレビアニメが四半期ごとに多く作られるが、その殆どが予算不足人不足で、動画を担当するアニメーターは死ぬほど働いて年収100万円台が普通らしい。しかもアニメ製作会社に所属していても9割が非正規社員で、5割が月収10万円以下。好きだから続けられるのかも知れないが、それだけではずっとは続かないし、それに甘えている会社も問題だろう。

最近のアニメは韓国や中国へ外注に出すのはもちろん、ベトナムとかインドネシアも利用しているらしい。そのような国の人々と争わなければならないのだから、日本のアニメーターは大変だ。

人もカネも足らないため時間不足に陥り、アニメの制作が間に合わず、予定通り放送さないことも多々あるそうだ。連載を落とす漫画家の話は昔からちょくちょく聞くが、最近はアニメでも同じことが起こる。
しかも、テレビ放送時は作画や動画がいい加減だったものを、Blu-ray発売時にキレイに書き直すというものも多い。"作画崩壊"と呼ばれる状態がちょくちょく発生するのも、人、カネ、時間が足らないことが原因なのだろう。

スタジオジブリのアニメーターはまだ恵まれている方らしい。それでも最近募集されたアニメーターの給与の条件が月20万円で、海外では「あのジブリでも20万円とは安すぎる」と話題になったそうだ。
ジブリは社員に充電期間が与えられ、その間も給料が支払われるとかなんとか聞いたが、ジブリでこれなら、ほかはもっと厳しそうだ。

そのジブリだが、一旦解散したものの、宮﨑駿がまたやる気を出して長編映画制作に取り掛かったのでアニメーターを募集している。宮﨑駿のことはよく分からないが、「君の名は」のヒットに歯噛みするような性格なのかも知れない。

私は宮﨑駿という人物は好きではないが、彼の作るアニメ作品はどれも素晴らしいと思う。宮﨑駿のアニメがなければ、日本アニメが海外で認知されるのがもっと遅かったのかも知れない。
彼が引退し、スタジオジブリも版権を管理する部門だけ残してほぼ解散したのは残念だったが、もう一度やるというのならそれに期待したい。

ジブリ解散後、米林宏昌というアニメーターがジブリのスタッフを多く引き継いでスタジオポノックという会社を立ち上げた。米林はジブリで原画や動画を担当し、「借りぐらしのアリエッティ」と「思い出のマーニー」では監督も務めた人物だ。
その米林宏昌が監督を務め、スタジオポノック第1作目の作品として銘打った「メアリと魔女の花」が昨日7月8日に公開された。私はまったく見る気がなかったのだが、嫁さんが見たいと言うので映画館で見てきた。会社の組合で割引で買った今月までの映画チケットが余っていたから、それを消費するためみたいなもんだ。
期待はしていなかったのだが、期待せずに見てよかったという程度の内容だった。

事情を知らない人は、テレビCMや予告だけ見てジブリの映画だと思うかも知れない。ジブリのスタッフを引き連れて立ち上げたスタジオとはいえ、あまりにもジブリ臭を出し過ぎだ。七光りの二世タレントが親の威光でテレビに出ているのと似たようなものを感じた。



映画の内容もまあまあ酷くて、最初から終わりまで、ずっと頭のなかに「ジブリのパロディ映画」という考えが漂っていた。ジブリ作品で見たことがあるような登場人物やシーンばかりなのである。

まず魔女になる主人公のメアリであるが、少女の魔女が黒猫を連れてホウキにまたがり空を飛ぶのは、誰が見ても「魔女の宅急便」を思い出す。
そのホウキに乗って向かう雲海のなかにそびえる魔法大学のエンドアは「天空の城ラピュタ」のようだ。
エンドア大学の校長のオバサンとサングラスをかけた魔法科学者は、「千と千尋の神隠し」の湯婆婆と釜爺を彷彿させる。
動物をたくさん携え、鹿に乗って移動するメアリの姿は「もののけ姫」かと思ったし、「ハウルの動く城」に出てくる喋る火みたいなのも出てきた。
魔法大学にいる魚は「崖の上のポニョ」っぽいし、ラストのシーンは「千と千尋の神隠し」の千とハクみたいに見えた。

それに加え、メインキャストに声優を使わず、有名俳優を使うのが宮﨑駿っぽかった。ゼベディとかいう爺さんの声を遠藤憲一が担当していたが、非常に聞き取りにくい声だった。
ストーリーも魔法の話にしてはすごく小じんまりとした、ごく小さい範囲での話で、登場人物も少なかった。

私はどんな話なのかまったく知らず、映画のタイトルもよく分からないまま見に行ったが、正直「なんだコレ」と思ってしまった。
実は「パイレーツ・オブ・カリビアン / 最後の海賊」も同じ日に見たのだが、まだそっちの方がマシだったように思う。
このガッカリ感は、宮﨑駿の息子の宮崎吾朗が監督した「ゲド戦記」を劇場で見たときと似ている。あれほど酷くはないが、どこがマシかと問われても答えに窮する。
よかったのは、どんなクソ映画でも見たら必ず買って集めているパンフレットが620円とほかより比較的安かったことだろうか。

スタジオジブリや宮﨑駿の後継者的な存在として期待された米林宏昌の独立後初作品がコレなのだから、アニメ監督がいかに難しいのかがよく分かる。
宮﨑駿の偉大さが改めて実感できる映画が「メアリと魔女の花」だろう。