20170816-1

昨晩、FacebookやInstagramなどのSNSを眺めていたら、台湾人がまあまあ騒いでいた。なにを騒いでいたのかというと、台湾時間の午後5時頃に台湾全土で大規模停電が発生し、台北や高雄など都市部を中心に台湾全体の約半数の家が5時間にわたって停電になったことだ。
エレベーターに閉じ込められてしまった人が結構いて、デパートでは買い物ができなくなり、信号が消えたせいで道路は大混雑したという。
YouTubeでそのニュースを見ていて一番笑ったのが、YouBikeという時間制のレンタルバイクが返せなくなって軽い混乱状態になっていたというものだ。先々月に台北市内でYouBikeを借りて乗っていたが、地元の人間ならともかく、観光客として借りていたらどうしたらいいか分からずパニックになっていたに違いない。

ただ、このニュースでちょっとドキッとしたのが、仕事関係の話だ。仕事でちょくちょく台湾に行くのは、台湾の半導体メーカーで使われている製品のトラブルだ。これだけの大規模停電が発生したとなると、半導体工場でも停電があったかも知れない。停電はいいとして、半導体工場などでは一斉に電源が入ったときにトラブルが起こりやすい。
なにか起こっているかも知れないが、私の会社はただの機器売りなので、現地のシステム屋がなんとかするだろうと思いつつ、明日出勤してみたらなにかとばっちりを食うかも知れない。
とはいうものの、台湾でもっとも大きい半導体メーカーが「問題は起こらなかった」と明言しており、私が関係してそうな工場も問題なかったのかも知れない。

この大規模停電の理由は明らかになっている。桃園の大潭発電所に天然ガスを供給している公営企業の台湾中油の従業員が作業を誤り、2分間にわたってガスの供給が停止した。そのため、発電所内の6基の発電機すべてが停止してしまった。
台湾中油は人為的ミスだとしているが、そのような人為的ミスが起こるような状況になっていたことこそが人為的ミスであろう。このようないわゆるヒューマンエラーというやつは、ミスをした作業員が悪いというより、ミスによって大問題が発生するような仕組みの方が悪い。

大潭発電所は台湾北部への供給電力の3分の1を担っており、それが止まることであっという間に電力不足に陥った。おりしも台湾は猛暑に見舞われており、15日には電力使用量が過去最高に達していた。
ここ数年、台湾では夏に供給予備率が3%を切り、1.6%くらいにまでなることが度々あった。今年も1.7%になり、14日に台風被害を受けた別の火力発電所を急ピッチで直して動かしたばかりだった。

もう誰も覚えていないかも知れないが、日本では供給予備率が3%を下回ると予想された場合に計画停電が実施される。台湾では日常的にその3%を切った状態だった。そのため、どこかの発電所でトラブルが起これば大規模停電になることは目に見えていた。
台湾の大停電は起こるべくして起こったトラブルなのだ。

台湾では電力供給の半分弱が火力発電で、2割が原子力発電だ。供給予備率が1%台になることもあるというのに、脱原発を進めてきた民進党の蔡英文政権は公約通り脱原発を決定した。台湾の一般市民らも台北近くに建設されていた「核四」と呼ばれる原子力発電所を中心に原発反対運動を多く展開していた。
蔡英文総統は原発の代わりに太陽光などの再生可能エネルギーを代替電力とするなどと、菅直人みたいなことを言っている。再生可能エネルギーが原発の代替電力にならないことは世界中の状況を見れば明らかだろう。原発の代替は火力発電しかない。石油や天然ガスを買い、CO2を排出しながら発電するほか道はない。

停電を報じたニュースのコメントを見ていると、これまで散々反原発運動をしてきた台湾人も「やはり原発を動かすしかないんじゃないか」と語り始めた。3か所の原発が稼働している現在で供給予備率1%台、発電所トラブルで即大規模停電の状況を考えれば、原発を止めたらどんなことになるのかすぐに予想ができる。
蔡英文総統は再生可能エネルギーにくわえ、節電も促すと言っているが、これまでにこのブログで書いたとおり、台湾人に節電は絶対にムリである。台湾人は節電の"せ"の字も考えていない。

台湾ではオフィスのエアコンの設定温度を見たら20℃とか22℃とか普通だ。商店はドアを開けっぴろげにして冷房をかけている。冬に地下鉄に乗っても冷房がかかっているくらいで、人々がユニクロのウルトラライトダウンを着て、地下鉄に冷房が効いている様子はなにかの冗談かと思ってしまう。
台湾人には中国人気質があり、堪え性がなく、ガマンをしない。2011年の日本の計画停電や節電を台湾人にできるはずがない。この年、日本に来た台湾人に何度も「日本は暑すぎる」と文句を聞かされた。
供給予備率が3%を切って政府が節電を呼びかけても、誰も節電に呼応しない。「ほかのヤツらが涼しくやってるのに自分だけ暑い思いできるか」とか「暑くしたら客が来なくなる」という考えばかりがある。

無計画に脱原発を決めるとどうなるか、台湾がいい例になるだろう。供給予備率1%台でもなんとかやりくりしているように、なんとかなるかも知れないが、今度のような大規模停電を何回か起こすに違いない。
停電を何度かガマンするだけで済むならいいが、今回は台湾の半導体企業などが軒並み株価を下げており、経済的に打撃を与えている。このようなことが何度も起これば市場からの信頼を失いかねない。
今後台湾がどうなるのか、注視する必要がある。