20170914-1

20年くらい前、日本のバラエティ番組で活躍していたビビアン・スー(徐若瑄)は、1999年の台湾中部で発生した大地震を始めとする複合的な原因で活動拠点を台湾に移した。それ以降日本で見る機会が減ったが、日本での活躍が知られていた台湾では凱旋帰国した形になり、今や台湾芸能界のビッグスターである。
シンガポールのカネ持ちと結婚し、シンガポールに住みながら子育てをしているが、たまに台湾に戻ってテレビに出演している。

ビビアンが奇妙な日本語を話していたのは祖母の影響だ。ビビアンの母方は台湾の少数民族であるタイヤル族の家系なのだが、母方の祖母は中国語があまりできず、タイヤル語と日本語しか話せなかった。そんな祖母と日本語で会話していたビビアンは自然に日本語が身についたという。
ビビアンの家は母親、姉、弟が日本への留学経験があり、日本統治時代を知る祖母を含めて、日本に対する感情はよさそうだ。

ところが、である。そんなビビアン・スーに関するYahoo!ニュースに、「ビビアンが反日映画を作るまでは応援していたのに」というコメントが書き込まれていた。
なんのことかよく分からず、「ビビアン・スー
反日映画」で検索をしてみたら、「反日映画のセデック・バレにビビアン・スーが出資」というニュースがあった。どうやら、それのことを指しているらしい。

「セデック・バレ」については、Blu-rayを買って鑑賞し、その感想をこのブログに書いた。

映画「セデック・バレ」 (2014/02/05)

日本統治時代の台湾で、小学校の運動会のときに日本人が現地の少数民族に大量虐殺された霧社事件を描いた映画だ。ジャンル的には抗日映画になるが、実際に映画を見てみれば、これを反日映画だと思う人はいないのではないか。
監督の魏德聖(ウェイ・ダーション)は、「海角七号」や「KANO」という中国が激怒した親日映画を作った人である。台湾の抗日運動に焦点を当てたというより、少数民族のアイデンティティを描いた映画だ。

かなりの制作費がかかったため、ビビアン・スーは映画に出資したうえで、ノーギャラで原住民の警官の妻役で出演した。
セデック族の警官は日本を裏切り、セデック族による日本人虐殺を手引したが、ビビアン・スー演じるその妻は日本に保護されていた。日本を裏切った夫のことが知れ渡っているため、日本人からの報復を恐れたが、妊娠していたその妻に対して現地の人間が「日本人は妊婦を殺さないから大丈夫だ」と言う。

史実を多少誇張した程度の映画であって、反日でもなんでもない。日本人の悪人は事件のキッカケとなった殴打事件を引き起こしたイヤな日本人警官くらいで、過度な反日描写があるわけでもないし、日本を貶めようとしているわけでもない。

Yahoo!ニュースにビビアン・スーのことを反日だと書き込んだヤツは、きっと「セデック・バレ」を見もしないで、ネットの情報だけを鵜呑みにして彼女のことを悪く言っているのであろう。
「セデック・バレ」を見て反日映画だと認識し、それに出資したビビアン・スーを反日運動に加担したと思ったのであれば、頭がどうかしているとしか思えない。

これとよく似た話で、アンジェリーナ・ジョリーの「アンブロークン」という映画があった。第二次大戦中に日本軍の捕虜となった米軍人によるノンフィクション小説を映画化したもので、日本では公開前に反日映画のレッテルを貼られた。原作の小説に、日本の風習によって捕虜が行きたまま日本人に食べられたという間違った描写があり、そのせいで反日映画のレッテルを貼られたようだ。

日本での公開にすったもんだがあったのだが、実際に公開後に映画を見た人は口を揃えて「思ったほど反日ではなかった」と評した。
産経新聞で毎週金曜日に文化面に掲載されている映画レビューも同様だった。

【産経ニュース】「不屈の男 アンブロークン」 反日的ではない、製作者は公平な描写を心がけた (2016/02/12)

米兵の捕虜を執拗に虐待し、ボコボコにするシーンはてんこ盛りであるものの、実際に原作を書いた本人がボコボコにされたわけだし、実際に捕虜への暴力もあっただろうと予想できる。日本のイメージが悪くなるわけだが、この程度で反日映画のレッテルを貼るにはいかにも単純過ぎる。

そもそも、「セデック・バレ」にしても「アンブロークン」にしても、見もしないで反日映画だと決めつけているのが間違いなのだろう。日本にとって不利なことが出てくるだけで反日映画と評するのは、いかにもバカそうに思える。

内容をよく知りもせず、ネットなどの伝聞情報だけでレッテル貼りしたり評価をすると、あとで必ず恥をかく。
いい勉強になった。肝に銘じておこう。