20170922-1

死んだ私の父親が、若い時分に徹夜作業の仕事を終えて会社の宿直室で仮眠しようとしたとき、ギックリ腰になって大変な目に遭ったと話をしていた。
強烈なギックリ腰でベッドの上でまったく動けなくなってしまったという。しかも運の悪いことに、その宿直室に1日以上誰も来なかったので、発見されるまで1日以上ベッドの上で動けないまま過ごしたという。
当然トイレも行けなかったから、小便も大便も垂れ流すしかなかったと父親は語っていた。ウンコやオシッコを垂れ流すのは仕方ないとして、発見時はその様子を誰かに見られるわけだし、誰がその後片付けをしたのか気になったが、なんとなく聞き流してしまって「へー」という返事で会話が終わってしまった。
今となっては確認のしようがない。

その話を聞いていたので、停電したエレベーター、あるいは地震で倒壊した建物に閉じ込められた場合、用便に関する生理現象はどうするのかが気になって仕方がない。

エレベーターはありそうな話で、自分ひとりなら隅の方でやっておけばいいだろうが、誰かと一緒ならそういうわけにもいかない。しかし、用を足さないわけにもいかないので、「ちょっとあっち向いといて」とか言って排便するのだろうか。ウンコしている様子を見られなかったとしても、匂いが漂うわけで、気まずい雰囲気になりそうだ。

地震で倒壊した建物に閉じ込められた場合、身動きできなかったら私の父親にように垂れ流しになる。ウンコやオシッコのことなど気にしている場合ではないだろうが、救助隊に救出された感動的なシーンでズボンがウンコやオシッコまみれなのかと想像してしまう。

こんなことを考えるようになってしまったのは父親の話のせいだ。

昨晩ニュースを見ていたら、メキシコの地震で倒壊した学校に生き埋めになった12歳の女子児童の報道があった。フリーダ・ソフィアという名前で、倒壊した校舎の45センチの隙間から出られない状況で、SNSを使ってそれらを伝え、救助隊がホースを使って建物の隙間から水を与えたという内容だった。
メキシコではフリーダちゃんの救助作業が夜通し生中継されていたという。
そのニュースを見て、「身動きできないのならトイレはどうするのか」、「自分なら助け出されたときウンコが付いていたら嫌だから土や粉塵で汚す」などと嫁さんにバカみたいな話をした。

どうなったのか気にしていたのだが、今日の昼になって「地震で救出劇の女児は実在せず」という衝撃のニュースが流れた。
学校で生き埋めになっていたのは成人女性で、救助時には既に死亡していたという。フリーダ・ソフィアという女子児童はそもそもその学校に在籍していなかったという。
現場でうわさ話だけが先行して報道されたわけだが、SNSで救助を求めたとかいう話や、救助にあたっていた海軍関係者は何にホースで水を与えていたのか。救助隊がガッツポーズを取り、報道陣が涙を流しながら救助まであと少しと報道していたのはなんだったのか。

「生き埋めになった女児がいなくてよかった」と見るむきもある。果たしてそうか。

昔、「1分間の深イイ話」というテレビ番組で、ロベルト・デ・ビンセンツォというアルゼンチンのプロゴルファーの話を紹介していた。トーナメントで優勝した彼にある女が「子供が重病にかかったが、おカネがないので医者に見せられない」と語って近づいてきた。すると彼は優勝賞金の小切手を「子供のために役立てて」とその女に渡した。しかしそれはただの詐欺で、翌週に彼は女には子供がおらず、詐欺に遭ったという事実を知り合いから告げられる。すると彼は「死にかけた子供はいないのか。今週で一番いい知らせだ」と話したという。

これはいい話だと思うが、メキシコの生き埋め女児はそれと同じではない。ただただシラケるだけではないか。
こんな話があったせいで、次また今度「生き埋めになっている子供がいます」というニュースがあっても、「ホントかよ」と懐疑的にしか思えなくなるのではないか。

いろんなことを見たり聞いたりすることで、余計な考えがちらついて、ものごとをうがった見方でしか見られなくなってしまう。
段々と汚れていくような気分だ。