20171112-1

トランプ大統領のアジア歴訪は、訪れる国々にとっては嵐がやって来るようなものだ。なにを言い出すか分からない爆弾みたいな大統領がやって来るわけで、なんとか無事にやり過ごしたいと各国が防備を固める。

日本は安倍首相がゴルフ外交を展開し、世界トップクラスの松山英樹プロまで呼んでゴルフ接待をした。名前入りの帽子をプレゼントし、肉が好きなトランプを最高級の和牛でもてなした。それに先だって日本にやってきた娘のイヴァンカにも最高クラスのおもてなしをした。
日本政府が恐れているのは日米FTAの締結を強く迫られることであった。安倍首相は何千億円かのアメリカの兵器購入も約束したが、結局トランプ大統領は露骨にFTAを要求はしなかったものの、マスコミの前で対日貿易赤字に不満を示し、FTA締結の要求をの匂わせた。

散々トランプをもてなし、おだててコレである。反米デモとまずそうな飯で出迎えた韓国と大して変わらないのなら、三食ずっとハンバーガーを食わせておいでもよかったのかも知れない。

日本と韓国を経由したトランプ大統領は、3か国目の中国に入った。アメリカの貿易赤字の半分は対中貿易赤字だ。日本は9%で2位であるが、1位の中国は全体の47%で3470億ドルにのぼる。中国でトランプ大統領がどれほど文句を言うのかと思いきや、中国に対しては文句など言っていないに等しかった。
故宮を貸し切りにしてトランプ大統領を案内した習近平は、米中間で2500億ドル(28兆4000億円)もの商談を用意して合意させた。中国は4兆2000億円出してボーイングの航空機を300機購入するという。

習近平が札びらでトランプの顔を叩き、トランプがそれを受け入れた形だ。トランプとしてはアメリカへのいいアピールができ、手土産としては申し分ない。ドナルドとシンゾーと書かれた帽子なんかより、なにかアメリカのもんを買ってやる方がよほど効果があるということだ。トランプ大統領をチヤホヤしても大して効果がなく、カネでものを言わせるしかないということがよく分かった。
日本の5倍の貿易赤字を出していても、液化天然ガスやボーイングの航空機を何兆円か購入してやればトランプは黙るのだ。逆に言うと、トランプを黙らせるにはカネしかない。トランプはビジネスマンだとか言われているが、守銭奴だということがよく分かった。

習近平にとって、行動が読めないトランプのような男は厄介だったかも知れないが、とにかくカネでなんとかなると分かったに違いない。調子に乗って、米中首脳会談でまたぞろ太平洋分割案を匂わせる発言をしていた。
かつて習近平はオバマに対して「太平洋をハワイより西を中国、東をアメリカで分割統治しよう」と持ちかけて無視されたことがあった。メチャクチャな提案なのは間違いない。九段線とかいうアホな線を引いて南シナ海を手に入れるだけでは気が済まず、台湾や日本までも飲み込んで太平洋の西半分を中国のものにさせろという提案だ。そのうち、世界をアメリカと中国で二分割して支配しようと言うに決まっている。
トランプ大統領は無反応だったようだが、カネ次第で簡単に転がる大統領だから、今後どのようになるかなんとも言い難い。

習近平にとってトランプ大統領以上に与しやすい相手が韓国の文在寅大統領だろう。THAAD問題で締め付けられた韓国は、朴槿恵政権時は耐えていたが、文在寅に代わってすぐに音を上げた。元々、中国に逆らうつもりもなかったのだろうが。
中国人観光の制限や中国国内での韓国企業への締め付けを緩めてもらうかわりに韓国政府が飲んだのが「三不」(3 No)と呼ばれる3つの条件だ。"不"は中国語の否定を表す言葉で、THAADを追加配備しない、アメリカのミサイル防衛に参加しない、日米韓3か国の軍事同盟に発展させないという3つだ。

文在寅は中国からの圧力に忠実で、これを守った。明日11日から日本、アメリカ、韓国が参加して日本海で実施されるはずだった米軍の3つの空母打撃群との合同訓練が、韓国の強い反対で白紙となり、アメリカと韓国だけで行われることになった。三不の原則に反する日米韓の軍事同盟だと中国に受け止められる可能性があるため、日本の参加はまかりならんというわけだ。

日本が嫌いで結構だが、韓国のこの対応は目に余る。北朝鮮有事の際、韓国は日本の協力なしには北朝鮮に立ち向かえないだろう。対北朝鮮での軍事行動には日本国内にある米軍基地が重要になるわけだが、日本政府がダメと言えば米軍が朝鮮半島に行くこともできなくなる。対北朝鮮を考えれば、互いに嫌いでも軍事的にちょっとくらい手を結ぶべきなのに、中国の目が気になってどうしてもそれができない。北朝鮮に融和的だから、その必要もないと考えているのかも知れないが。
いずれにしても、習近平にとってこれほど扱いやすい周辺国はないだろう。カネでちょっと締め付ければすぐに崩れ、ちょっと脅せば付いてくる。

トランプも文在寅もこれでは、「カネさえあればなんでもできる」と、ますます中国をつけあがらせるだけである。実際、カネさえあればなんでもできるわけだが、思い上がっている中国をなんとかできないのだろうか。