20171130-1

北朝鮮がミサイルを撃つたび、小学校の社会科の時間に地図投影法を習っておいてよかったと思う。長方形のメルカトル図法、楕円形のメルカトル図法、円形の正距方位図法の特徴を習った。
北朝鮮がミサイルを撃つと、正距方位図法の地図が新聞に掲載される。北朝鮮を中心とした地図で、中心点からの方位と距離が正しく投影されている。まさに、北朝鮮がミサイルを撃ったときの報道のために作られたような地図だ。

29日(水)の未明に発射された新型ICBMの「火星15」は、通常角度で打ち上げると飛距離1万3000キロだという。北朝鮮が中心になっている正距方位図法の地図を見ると、アメリカのなかでもっとも遠いフロリダ半島の先端が1万2000キロちょっとなので、アメリカ合衆国全土を狙える飛距離になる。
正距方位図法のことを知っていてよかった。

ICBMに関わることで学校で習ったことでいうと、高校の物理の時間に第一宇宙速度というのを習った。なんらかの物体を衛星軌道で打ち上げても、秒速7.9km(時速2万8400km)に達しないと、どんな角度で打ち上げても重力を振り切れずに絶対に地表に落ちてくる。第二宇宙速度というのもあって、初速度秒速11.2km以上で打ち上げると地球の重力を振り切って宇宙空間に飛んでいく。人工衛星は第一宇宙速度を超える速度になるようにして、かつ第二宇宙速度を超えないような初速度で打ち上げると地球の軌道上に乗るという。
ICBM(大陸間弾道ミサイル)を撃ったのに宇宙の果まで飛んでいっては意味がないし、地球の軌道上に漂うミサイルになっても意味がない。ICBMは遠くに飛ばしつつ、かつ撃ち込む先の準備時間を与えないために速い速度で飛び続けなければならないが、速すぎるのはダメなようだ。

学校で勉強したことがニュースの内容を掘り下げて知ることに役に立つと北朝鮮が教えてくれる。

それはさておき、北朝鮮から29日に発射されたミサイルがそれなりの性能であることは間違いないようだ。ほぼ真上に打ち上げることで飛距離はおよそ1000kmだったが、高度4475kmに達し、これまでの北朝鮮のミサイルで最長の53分間飛翔した。
なにかと「韓国にはサムスンがある」と自慢する隣の国では、国家的産業としてスマホや半導体を作るのは得意でも、ロケットの打ち上げもはままならず、ロシアの技術を導入しても3回やって1回しか成功していない。ところが北朝鮮は、同じようにロシアなどの海外の技術を取り入れつつ、ここのところ毎回着実に成功させてきている。飛距離もどんどん伸ばしているので、今回の「火星15」が本当に1万3000キロ飛ぶのであれば、ロケットの技術としてはほぼ完成で、あとは大気圏再突入で燃えない弾頭や、その弾頭に搭載できる核爆弾の小型化が残っているが、それもすぐにやってのけるのだろう。

金正恩は異母兄や親戚も平気で殺すサイコ野郎であるが、技術者に対しては正当な評価を行い、それなりの報酬を与えているという。朝鮮労働党の幹部は会議でアクビをしただけで処刑するが、ミサイル開発の技術者が失敗しても罰を与えない。罰をチラつかせて萎縮させても効果がないことを理解しており、ほかとは違う寛容な態度で接しているという。しかも、技術者らと一緒に失敗の原因を探り、問題の解決を図るという姿勢も見せており、技術者側からすれば理想的な上司であると言える。
叱咤激励するが、失敗を責めず、問題があれば一緒に考える。成功すれば褒美を与えているのだ。

北朝鮮がミサイルを撃つのは、キチガイが刃物を振り回すといった狂気の沙汰ではなく、金正恩が確固たる信念を持ってやっているわけで、一筋縄ではいかないことがよく分かる。金正恩の旗振りによってちゃんと結果を残しているわけで、これは驚異的だ。
必ずや、核弾頭の小型化、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の高性能化も実現させるだろう。そのとき、アメリカや日本にはなにができるのだろうか。

金正恩を電話の受話器を頭に乗せたブタだと思っているとしっぺ返しを食らうに違いない。トランプ大統領は「ロケットマン」だの「デブのチビ」だの罵るが、日本やアメリカを核で脅す世界最悪の指導者になりつつある。

金正恩は後戻りするつもりもなく突き進んでいる。いくら対話を呼びかけても応じないのは当然だ。ここまでカネと時間をかけてやってきたことを放棄するわけがない。
金正恩の暴走を止めるのは、もはやコイツをぶっ殺すしかなくなっているのではないか。だからといって、誰が公然とそれをできるだろうか。金正男の暗殺を世界が批判したが、予防的に国家指導者を殺すことは許されるのか。
ずいぶん前から日本やアメリカの対応には手詰まり感があるが、北朝鮮だけはどんどん進んでいる。このままだと、アメリカが北朝鮮の核保有を認め、金正恩体制の維持を約束するのではないか。それこそ最悪の展開である。北朝鮮のICBMや核弾頭をよその国に販売されると、世界がメチャクチャになってしまうし、拉致被害者は永遠に取り戻せない。

日本には北朝鮮の出先機関である朝鮮総連があり、スパイ養成学校である朝鮮学校がある。北朝鮮に手出しできないなら、まずは国内にあるそこらへんから手を付けてみてはどうか。
なにもせず、ただ北朝鮮のミサイル攻撃の進歩を指を咥えて見ているわけにはいかない。