20180208-1

中国や台湾、韓国、ベトナムなどの中華文化圏では、年末年始といえば春節前後を指す。旧正月のことだが、新暦の年末年始は元日だけが休みで、旧暦の正月である春節が大型連休になっていて、日本と同じように帰省したり、海外旅行に行ったりする。
今年は2月16日が春節で、現地は今頃から休みモードで浮かれた感じになっている。

春節の時期は、私が勤める企業の顧客でどんなトラブルがあっても滅多に「調べに来い」とならないので急な出張がないので気楽になれる。普段はとにかく厳しい顧客でも、春節時期はどうしても緩くなる。春節時期でも台湾、韓国、中国あたりの半導体工場は止まらないが、それでも社員連中はその時期に休みたいのだ。そらそうだろう。帰省や旅行の準備や予約をしているのに、仕事で急にパーになるのは誰だって嫌だ。

それでも、抜き差しならないトラブルがあったときはこちらにお呼びがかかるわけだが、春節前後だと航空機やホテルの確保が大変なので、呼ばれた方はウンザリさせられる。それに、トラブルのために休日出勤させられた顧客のイライラが伝わってくるので、できれば行きたくない。
勤め先でトラブルが発生し、年末年始に出勤せねばならなくなったら誰でもイラつくし、日本の年末年始に外国人が来て、移動や宿泊の手配をするのは大変だろう。その逆も当然大変になる。

先述したように、今年の春節は2月16日だ。韓国では今日8日(木)から25日(日)まで平昌五輪が開催される。韓国国内で平昌五輪のチケットの売れ行きが芳しくないとニュースになっているが、日本でいうとクリスマスから成人の日までオリンピックをやるようなもので、年末年始に家でゆっくり五輪観戦と考える韓国人が多くても当たり前に思える。

春節の大型連休は、中国で15~21日、台湾で15~20日で、韓国では15~18日で少し短い。しかしながら、五輪と春節連休が重なっているために大混雑が予想される。特に混雑が予想されるのが大会8日目の17日(土)で、交通量が平時の2倍になると見られている。
現状でも、練習の行き帰りでバスが来ずに日本選手が待ちぼうけを食らう事態が度々起こっているのに、大会が始まってから春節の連休と重なったときは大丈夫なのかと心配せずにはいられない。

さすがに大渋滞のせいで選手が移動できずに失格になるとか、そういうことは起こらないかも知れないが、深刻なのは観客の方だ。
欧米でスキー競技やスノーボード競技目当てに1000ドル出してチケットを確保したのに、平昌までの高速鉄道のチケットが手配できずに観戦を諦めるという事態が多発しているという。ある人は好きな座席を予約できる往復のフリーパスを1万7000円出して購入したのに、春節連休期間の15~18日はフリーパス対象外で予約できなかった。別の人は指定席を取ろうとしたら座席が全然空いてなくて取れなかった。移動手段が確保できず、やむなく五輪や航空機のキャンセルをする状態になったという。

韓国では春節連休の高速鉄道の座席予約は1月16~17日の2日限定で行われた。外国人は17日の午後4時以降に限られ、チケットを取ろうとしても既に取れない状態になっていたという。
韓国が五輪開催に合わせて平昌まで開通させた自慢の高速鉄道であるが、利用できない人が多くいるのならなんの意味もない。「ソウルから平昌まで2時間なので、ソウルに宿泊して平昌で観戦ができる」などと言われていたが、実際は春節連休前後は不可能に近い。
しかも、自国民を優先させてチケットを取らせるという性悪さで、高速鉄道を運営するKORAILの公式サイトの掲示板には海外から多数の不満の書き込みがあるという。

おもてなしの概念がない国ではこうなるのだろう。外国人に韓国のよさを宣伝するとか言っておきながら、わざわざ来ようと思った人たちに何万円何十万円も損をさせて来るのを諦めさせるなど、多くの不興を買っているのだから片腹痛い。

それでもなんとかそれなりに五輪を開催して、ぼちぼち成功させるのだろうが、韓国のこういう失敗を日本は他山の石とせねばならない。
2020年の東京五輪は口先だけで「おもてなし」などと言っているが、本当にうまくいくのか心配である。平昌五輪が春節時期から外せなかったように、東京五輪もクソ暑い7月末から開催される。東京でやるので交通の便は申し分ないが、観客と通勤客が一斉に移動するとなると、文字通り地獄になるのではないか。

関西では通勤ラッシュといってもたかが知れている。東京で通勤ラッシュの電車に乗ったときに心底驚いた。京浜東北線に乗ったら身動きできないほどの混みようで、踏切確認でしばらく止まったときに本当に途中で死んでしまうのではないかと思った。毎日乗車駅から座って通勤する身からすれば、東京でのあの通勤をしている人たちは尊敬に値する。
私は仕事だったが、観光客があんな通勤ラッシュに巻き込まれたらたまらないだろう。インドや中国の満員電車よりマシかも知れないが、実際に乗るのであればあまりいい思い出にはならないだろう。

東京五輪開催中の鉄道の混雑緩和に関する論文があったが、そこでの結論は競技ごとに観客を分散させて到着させ、かつアクセスさせる駅も複数に分散させることが効果的だが、もっとも効果があるのは通勤客など一般乗客の削減だと結論付けられていた。

東京オリンピック観戦客輸送の余裕を首都圏電車ネットワークは持っているか

五輪観戦の乗客が増える分、一般客を減らすしかないのは当然だろう。

東京五輪時の混雑緩和に向け、企業や官庁はある程度を想定して調整しようとしているらしい。ロンドン五輪では大会期間中の在宅勤務を推奨する企業が増えたため、交通機関ではそれほど混雑しなかったという。
日本でもこれを参考に、大手企業を中心に大会期間中の在宅勤務を進める動きが活発化している。
在宅勤務ができない仕事もたくさんあるが、そういうところは社員を時差出勤させたり、半休を与えてとにかく出勤、帰宅の時間を固めないようにするしかない。

なぜ五輪のためにそこまでしないといけないのかとも思うが、最後の日本開催になりそうな五輪だし、祭りみたいなもんだから、個人ではなく企業がそのくらい協力してもいいように思う。そこまでしてこそ「おもてなし」だろう。
平昌五輪のように「来たいヤツだけ勝手に来い」「移動手段はてめえで探せ」で不快感ばかり与える五輪にしては、国が恥をかくだけで、デメリットしかない。やるならシッカリやる。それでこそ日本人であり、よそのアジアの国との違いを見せつけなければならない。