20180607-1

アマゾンプライムで「ザ・パシフィック」が見られるようになったので全10話を見た。
アメリカのケーブルテレビ局であるHBOの制作で、HBOのドラマにはハズレが少ない。「ザ・パシフィック」は第2次大戦の太平洋戦線を描いた戦争ドラマであるが、別シリーズでドイツ戦線を描いた「バンド・オブ・ブラザース」はブルーレイのボックスセットを持っていて、まあまあ面白かったので期待をして見た。
結果、そこそこ面白かったのだが、日本との戦争を描いたアメリカの戦争映画に感じるのと同じ違和感を抱いた。

全10話で制作費が2億ドル以上かかったそうで、1話20億円以上かかっているだけに戦闘シーンはさすがの迫力だ。南洋の島嶼部における極限状態の戦闘が米兵を相当苦しめたのが伝わってくる。
ドラマに登場する海兵隊員は実在しており、史実に基づいたドラマだとされているが、原作にないシーンも多い。そのなかでもっとも物議を醸したのが、沖縄戦で赤ん坊を抱いた女性が米兵の気を引いたうえで爆弾で自爆するシーンだ。女性は赤ん坊もろとも木っ端微塵になる。

沖縄戦で日本軍の将校が民間人に自爆を命じたことはないとされているが、一部の日本人はあったと主張する。地雷を抱いた兵士が戦車に飛び込むことはあったが、日本軍が民間人に自爆させるというシーンは誰かの入れ知恵によって追加されたのだろう。日本軍の残虐さや卑劣さがより誇張されので、制作サイドからすればいい演出だったのかも知れない。

日本人としては噴飯ものであるが、まあこのくらいはガマンの範囲内だろう。アメリカをイイモン、日本をワルモンとして描くドラマなのだから、多少の誇張もあるのだろう。
米兵が死んだ日本人から金歯を抜いていたり、投降しようとしている無抵抗の子供を撃ち殺したシーンもあったが、基本的にドラマのなかの米兵はイイモンだ。日本兵の捕虜を小突き回す米兵に対し、下士官だかの米兵がジュネーブ条約違反に当たると説教をするシーンもあった。
戦争に勝ったアメリカが作ったアメリカのためのドラマなのだから、そういうのもある程度は仕方がない。

ただ、アメリカで作られる日本との太平洋戦線の映画、ドラマに出てくる日本兵がどれもこれも人間とは思えない描写なのが違和感を感じるし、とても不快に感じる。
なぜいつもそうなってしまうのか。

ドラマのなかで、日本兵のバンザイ突撃を目の当たりにした米兵が恐怖におののくシーンがある。死ぬことを恐れず、無意味な突撃をしてくる日本兵に恐怖心を抱き、精神的におかしくなってしまうものもいた。
ドラマに出てくるペリリュー島、硫黄島、沖縄での戦闘では、バンザイ突撃は行われず、トーチカなどにこもって戦い、米軍の進行を遅らせる作戦が取られ、ドラマでもその描写が出てくるが、結局は追い詰められた日本兵がワーワー叫びながら穴から飛び出してきて、米軍の格好の標的になって撃ち殺されてしまう。

「ザ・パシフィック」ではまだマトモな方で、ジョン・ウーが監督し、ニコラス・ケイジが主演した映画「ウインドトーカーズ」は本当に酷かった。サイパン島での戦いを描いた映画だが、出てくる日本兵は日本語にもならない言葉を叫びながら飛び出して米兵に撃ち殺されてばかり。ウヒャーと叫びながら飛び出してくるキチガイを次々と殺しているだけのようにしか見えず、大勢のゾンビを機関銃で一掃するようなシーンと大して変わらない。

ドイツ戦線の映画に出てくるドイツ人は、よくも悪くも人間として描かれる。悪役の人間だ。それに対して同じ悪役でも、太平洋戦線の日本兵はまるで人間ではない得体の知れないケモノであるかのようにしか描かれない。極めて人種差別的だ。
叫びながら米兵に撃ち殺されなかったとしても、日本軍の設定や考証なんぞ満足に行われないから、映画「パールハーバー」のように日本軍の作戦会議が鳥居や紅白の垂れ幕がある屋外で行われる描写が出てくる。日本人の役者を用意するのが面倒だから、中国系や韓国系の俳優で珍妙な日本語、デタラメな日本語を喋らせるだけ。
ドイツと違って日本の扱いはとにかく雑で、適当で、非人間的だ。「猿の惑星」に出てくる猿よりも酷い扱いかも知れない。

アメリカの映画やドラマで日本兵を人間らしく描いたのはクリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」が最初で最後ではなかろうか。
イーストウッドは米兵の戦いを描いた「父親たちの星条旗」を制作する過程で日本軍のことを調べるうち、「日本兵も米兵と変わりがなかった」ということに気が付き、日本人監督に適当に任せるはずだった「硫黄島からの手紙」のメガホンを自ら取った。劇中に出てくる栗林中将はじめ、多くの日本軍の兵士には家族がいて、その家族を守るために戦っている様子が描かれた。

「硫黄島からの手紙」は全員日本人役者で、全編日本語のアメリカ映画で、かなり特殊だ。そこまでやれとは言わないが、アメリカの戦争映画やドラマに出てくる日本兵の扱いをもう少しよくしてもバチは当たらないのではないか。
日本との戦いを描いたアメリカの映画やドラマを見ると毎度毎度モヤモヤしたものを感じる。アメリカ人はドイツ戦線の方が好きなので、太平洋戦線の映画やドラマ自体少ないわけだが、数少ない作品がどれもこれも引っかかるものばかりだと、いい加減見る気が失せてしまう。