20180610-1

「お客様は神様です」とはいうけれど、実際に客が神なのではなく単に客商売する側の心構えの話である。ところが、客にそれを見透かされていて、多少の無理も聞かせられると勘違いしているヤツが多い。商売では客の方が圧倒的に立場が上だ。

私が勤める会社のモデルチェンジした新機種について、旧機種から引き続き使っていたとある大企業が値下げを要求してきた。これまで1万円程度で売っていた機器で、新機種も同じくらいになるはずだったのに、「3000円で売れ」と言ってきた。3000円なんて価格は、製造前の部品代の総額よりも安い。絶対に無理なのだが、「中国では3000円くらいで売られているから」などと言う。
中国で同じような機器が3000円で買えたとしても、使用している部品も違えば、搭載しているソフトウェアも違う。なによりサービスが違う。中国の製品は売りっぱなしなので、どんな不具合があっても原因調査などマトモな対応はしない。中国製品の3000円と日本製品の1万円を比較すること自体がメチャクチャだ。

中国製品の3000円の製品が引き合いに出されることが侮辱的だというのに、結局営業が譲歩しまくって6000円になってしまった。機器を1台売って儲けは100円。トラブルがあればすぐ赤字。実際、トラブルが合ったので数千万円の赤字が出てしまった。
カスタム対応や不具合調査に応じない中国製品なんか業務用として使えるわけがないのだから、「どうぞ中国製をお使いください」と言えばよかったのに、ヘタレの営業にはそんなことができない。
せめてもの対応として、これまで同様の手厚いサービスはできないとの約束を取り交わしていたが、どんな取り決めをしていようとも、そんなもんはあってないようなものである。客が対応しろちいえばやるのが日本の企業。
1台売って100円しか儲からない製品のために、これまでどおりのサポートを取り、手厚いサービスを提供させられる。「次からもう買わない」と言わせたくないからだ。

言わせたらいいのに、何億円も買ってくれる客には頭が上がらないのが現状だ。どう考えても客の方が立場が上で、売る方がヘーコラさせられる。よほど芯のある企業でない限り、こんなことになってしまう。人の足元を見る企業もどうかと思うが、客としての立場を最大限に利用しているだけであり、それにホイホイ乗っかる方がアホなだけだ。

この客の立場を今最大限に利用しているのがアメリカのトランプ政権ではなかろうか。「WTOなんぞクソ食らえ」と言わんばかりに、鉄鋼とアルミニウムの輸入品の高い関税をかけたかと思えば、今度は輸入自動車に高い関税をかけようとしている。トランプ大統領が掲げる保護主義だ。

アメリカは中国とも貿易戦争を繰り広げていて、アメリカの輸入関税に関して反撥した中国がアメリカ製品に報復的な関税をかけたものの、それは小規模に収まっている。舐められるわけにはいかないのでやってみたものの、本気でトランプを怒らせたくないという習近平の考えの現れだといわれている。
米中間は圧倒的に中国の貿易黒字になっており、中国がたくさん売ってアメリカがたくさん買う構図において、中国が米中間の貿易戦争で不利なのは間違いない。アメリカにものを売れなくなると、アメリカのものを買わないにしても結局自分の首を絞めるだけである。

米国債購入の取りやめや売却も中国の脅し文句としてよく出てくるが、ドルを売って人民元に変えることなどするわけないと見られており、ハッタリだと見透かされている。
トランプ政権にはルールもへったくれもないわけだが、どちらが強い立場であるかを分かって確信犯でやっている。

先のG7でドイツやカナダを始め、日本も含んでアメリカの保護主義に強く反対したそうだが、トランプ大統領はどこ吹く風だ。G7で自由貿易の推進と保護主義に反対する首脳宣言を採択したそうだが、トランプ大統領はあとになって事務方に承認しないよう支持を出したそうだ。
元々、米朝会談直前のG7なんぞ行きたくないと行っていたトランプ大統領であるが、G7のほかの国からなにを言われようが意に介さない。日米首脳会談でも安倍首相に日米FTAを迫ったように、アメリカに関するルールはアメリカが作ると考えているのだろう。安倍首相はアメリカにTPP復帰を促しているが、トランプ大統領が乗ってくるわけない。関税について他国からWTOに提訴されればWTOから撤退してしまうかも知れない。FTAだけ結んで相手に従わせておけば、それほど楽なことはない。

日本は安全保障の兼ね合いがあり、そんなアメリカにもついていかねばならないという。情けない限りだ。
反政権メディアは安倍首相をスネ夫になぞらえて批判するが、今のこの米に関する貿易摩擦を見ていると、ますますジャイアン化するアメリカに不本意ながらもついていっているスネ夫のように見えてしまうのは間違いない。そこらへんの舵取りが難しいところであるが、日本はアメリカの子分ではないのだから、安倍首相には言うべきことは言ってもらいたい。