20181207-1

「M-1グランプリ」はほかのお笑いコンテストと違って芸人が売れるきっかけになるほど影響力が大きく、放送が終わったあとの話題の事欠かない。

今年は例年通り、誰がよかったとかいう話がそこかしこで出たほか、優勝した霜降り明星の仕事が激増したというニュースもあったが、それを打ち消すかごとく出てきたネガティブなニュースで話題が持ちきりだ。

番組放送後に決勝で敗退したスーパーマラドーナの武智がInstagramでライブ配信を行い、前年度優勝のとろサーモン久保田と一緒に酒の勢いを借りて審査員の上沼恵美子を痛烈に批判した。それが大問題になっている。
ふたりの会話は以下のようなものだ。
久保田「自分の感情だけで審査せんといてください。1点で人の一生が変わるんで理解してください」
久保田
「多分お笑いマニアの人は分かってますわ。お前だよ、一番、お前だよ。分かんだろ、右側の。クソが」
久保田「申し訳ないけど、審査するってことは演者と一緒で同じ熱量で点数が同じだって思いたいやん。これが格差が生まれたら違うやん。それを『私が好きー』とか言い出したら(テーブルを蹴り上げる)」
武智「右のオバハンや。右のオバハンにはみんなウンザリですよ」
武智「そんで『嫌いです』って言われたら更年期障碍かと思いますよね」
久保田「そやろ。『私は年だから分からへんねん』とか知らんねん!」
久保田が上沼恵美子に対して「個人の感情で審査するな」と文句をつけ、それに同調した武智が上沼恵美子を更年期のオバハン呼ばわりしたわけだ。

武智としては、Instagramで自分をフォローするファンへ発信したつもりで、上沼恵美子に対して管を巻いて文句を言っても同調する意見しか出ないだろうと思ったのかも知れないが、思いの外すぐに批判が起き、ライブ動画を削除したものの保存されたものが転載されてしまった。
Twitterなどで炎上するヤツとまったく同じ構図だ。

ふたりの発言のうち、特に武智の更年期云々について「女性蔑視だ」と批判する声があるが、どちらかというと審査批判の方が気になる。どう考えても問題があり、批判されて当然だ。

久保田は個人の感情で批判をするなと主張していたが、漫才コンテストの審査など個人の感情以外なにで審査するのか。コンビが好きか嫌いかではなく、当日のネタのみで判断しろとのことだろうが、M-1には審査基準など一切ない。これまでの大会からも審査員が各々の基準で審査していることは明白ではないか。
上沼恵美子が好きだと公言していたミキにはその日最高点の98点をつけたが、同じ98点を和牛にもつけており、霜降り明星には97点だった。ネタが好みではなかったと言っていたジャルジャルには最低点の88点をつけていたが、別にジャルジャルが好きじゃないから88点ではなく、ネタが好きじゃなかったから88点だった。
この審査のなにが悪いか分からない。

BuzzFeedで審査員の採点について分析されていた。審査員7人のうち、上沼恵美子、立川志らく、松本人志、ナイツ塙は標準偏差が大きく、サンドウィッチマン富沢と中川家礼二は標準偏差が極めて小さかった。

【BuzzFeed】賛否両論の『M-1』上沼恵美子さんの採点 本当に偏っていたのか (2018/12/04)

これは上の4人がネタの好みによって得点差を大きくする審査スタイルで、富澤と礼二は得点差を小さくして、結果に及ぼす影響を少なくしようとする審査スタイルだと思われる。
富澤と礼二の審査スタイルはヘタレといえるが、その気持ちは分からないでもない。「M-1」を立ち上げた島田紳助が言っていたが、「M-1」では審査員も出場者と同じくらい緊張するという。世間とぜんぜん違う審査をしてしまうと「見る目がない」と思われてしまうからだ。
「M-1」の審査は100点満点だが、大体80点から100点の間で点をつける。もしひとりでも50点とかつけてしまったら、その時点でおしまいだからだ。さすがにそんなことにはならないが、松本のように80~94点、上沼のように84~98点の振り幅で採点するのはリスクがある。

「M-1」の審査は難しいから、引き受け手が少ないのだという。だから松本人志がお願いして、かつて女子高生漫才師として上方を席巻した上沼恵美子に来てもらったそうだ。
その上沼恵美子は彼女なりに好きだ嫌いだの個性を出して審査したわけだが、それも審査員の裁量である。

上沼恵美子の審査基準に文句をつけるということは、上沼を連れてきた松本人志や、審査員として迎えている番組自体に文句をつけているのと同じだ。
酒の勢いか何か知らないが、芸人ならば文句を言うべきではない。
特に武智は、関西の番組で「M-1のことを一番思っているのはオレや」と常々発言していた。ラストイヤーで敗退して悔しかったのだろうが、終わってから審査員に文句を言うことほどカッコ悪いことはない。

今年の「M-1」も面白かったのに、終わってからの久保田と武智の上沼批判ばかりがクローズアップされ、残念なことになってしまった。文字通り水を差した格好で、台なしにしたと言っても過言ではない。

終わってから人前で文句を垂れたところでどうにもならないというのに、どうしてこの手のタイプの人間が一向に減らないのだろうか。「M-1」のことを思って発言したわけではなく、単に感情に任せて上沼恵美子が気に入らないとぶつけただけだ。何の生産性もない。「M-1」がそんなに好きなのであれば、明確な審査基準を設けるよう後日提案するだけでよかった。

人それぞれである笑いの審査基準をについて他人を批判しても受け入れられるわけがなく、そんなことに文句を垂れているヤツの品性が疑われ、自分が損をするだけである。
久保田や武智のようにそんなことも分からない芸人にはお灸を据える必要があるだろう。