20190113-1

年末年始にアマゾンのプライムビデオでジャッキー・チェンの映画が得値で販売されていて、購入すれば普段2000円するのが500円になっていたので「プロジェクトA」と「プロジェクトA2」を買った。この頃のジャッキー・チェンが出演する香港映画は最高に面白く、私くらいの年代の人間にとっては子供時代の楽しい思い出に直結している。特に「プロジェクトA」は何度見ても面白く、ジャッキーが時計台から落ちるスタントで大怪我を負ったのは有名だろう。

「プロジェクトA」は20世紀初頭の香港が舞台で、水上警察に所属するジャッキーは「女王陛下のために」と言っていたが、今のジャッキー・チェン本人は習近平や中国共産党のためにそれらの飼い犬となって活動しているのを見ると心が痛む。どうしてそんなふうになってしまったのか。

1999年の香港返還の前、中国政府の下では自由な映画撮影ができないと危惧していたジャッキーが日本に居住するのではないかと言われていたが、そうはならなかった。元々噂のレベルだったが、「レッド・ブロンクス」(1995年)と「ラッシュアワー」(1998年)が立て続けにアメリカでヒットし、ハリウッドに進出してしまったから可能性はゼロに近かったに違いない。

香港人のまま中国人となってしまったジャッキー・チェンは2000年代に入って中国政府のために活動をする。北京五輪を応援し、上海万博は広報大使を務めた。それだけならよかったが、身も心も共産党に染まってしまった。夫人は台湾人であるのだが、台湾ではジャッキー・チェンがものすごく嫌われている。2004年の台湾総統選挙で民進党の候補が銃撃されたことを「大きな笑い話」と揶揄し、中国と台湾は統一した方がいいと発言したせいだ。
馬英九政権のときに台湾の故宮博物院にジャッキーが寄贈した十二支像のレプリカは、蔡英文政権に変わって撤去された。ジャッキー寄贈を好ましく思わない人から赤いペンキをぶっかけられるなど散々な目に遭っていた像だ。

中国で芸能人としてうまくやっていくには政治家の後ろ盾が必要だという。それを失うとファン・ビンビンのようになる。中国人になったときには既に香港映画界のみならず世界的な大スターだったジャッキー・チェンだが、やはり彼にも政治的な繋がりが必要だったのだろう。そうなってしまうと中国共産党の言いなりになってしまうもの仕方がない。
子供の頃に好きだったジャッキーが、中共の犬に成り下がることを誰が予想しただろうか。

ジャッキー・チェンが気にしていたはずの香港も問題山積である。50年は一国二制度でやっていくはずが、20年経たずに崩れてしまった。政治に関して本土から介入が入り、議会で中国共産党への忠誠を誓わない議員はクビになった。かろうじて選挙は行われているものの、親中派が幅を利かせるようになってきた香港では民主派が勝てなくなってきた。
一度民主主義を味わっていた香港人が中国共産党になびくとはにわかに信じがたいが、商売で繋がりを持つと中国の方を持つ人間がどうしても増えてしまう。中国に依存すると親中派になってしまう人間が多く、そこからどんどん崩されていくわけだ。

1月2日の新年早々、習近平が台湾に関して台湾の統一に関する演説を行って台湾人を震撼させた。今月に入って台湾のニュースはこのニュースでもちきりだ。
習近平が50年以内に平和的に台湾を併合して一国二制度を敷き、それに対して介入してくる外国との武力衝突も辞さいない明言したからだ。
これに対し、蔡英文総統が「ひとつの中国(中国共産党の中国)」や「一国二制度」は絶対に受け入れないと明言した。これまで「現状維持」を掲げて「両岸で仲よくしましょう」と宣っていた台湾の親中派政治家たちもさすがに「一国二制度はムリ」と一斉に反撥した。
香港がどうなったか台湾人はよく知っている。香港の現状を見てすんなりと一国二制度を受け入れる台湾人などいるわけがない。

香港人が大陸の中国人を嫌うように、台湾人も中国人を嫌い、見下げている人が多い。
中国が文化大革命の際に取り入れた簡体字を嫌い、まともに順番に並ばないことも毛嫌いしている。空港のロビーで子供に大便をさせていた中国人と自分たちは違うと思うのも当然だ。習近平が台湾への締め付けで旅行客を減らしていることについて、現地の台湾人が「中国人が減って清々している」と言っていた。
台湾では選挙のたびに盛り上がるが、中国に統一されたら選挙もへったくれもない。自由もない。何もない。

習近平はアメリカが台湾について関与を深めていることに対する牽制として演説を行ったのかも知れないが、台湾に対してはマイナスにしか働いていない。なんとなく「現状維持」を望んでいた台湾人も、「台湾は台湾」と語気を強めるようになり、支持率を下げていた蔡英文政権を押し上げる結果になってしまった。

蔡英文にとって習近平の演説は追い風になったわけだが、台湾人が怖気づかないようにするためにはアメリカと日本が台湾を支援せねばならない。そうでもしない限り、永世国家主席となった習近平が、本当に50年後までに台湾を併合しようとちょっかいを仕掛けてくる可能性がある。そんなことになってしまえば、親日的な台湾も私が好きな台湾もおしまいだ。日本の地政学的にも絶対にそれだけは避けないといけない。

反面教師という言葉は毛沢東の造語だという。台湾にとっての反面教師、すなわち同じようになりたくない悪い例が香港だ。民主的な政治や言論の自由が奪われることを誰がよしとしようか。
香港という反面教師がいる以上、台湾は絶対に同じ轍は踏まないだろうし、踏みそうになったら誰かが止めねばならない。止めるのはアメリカと日本だ。とりわけ日本の役割が重要になるだろう。