20190217-1

アマゾンの初売りセールで米ドラマ「ブレイキング・バッド」のBru-rayボックスセットが安売りになっていたので1万4000千円もしたが買ってしまった。面白いと評判なので見たかったのだが、いつまで待ってもアマゾンプライムで無料配信されそうにないので買った。

休みのたびに見ているのだが、聞きしに勝る面白さだ。高校の化学教師が肺がんで余命僅かなことを知り、治療費と家族の今後の生活費を稼ぐために覚醒剤であるメタンフェタミン(メス)作りに手を出すという話だ。元々優秀な化学者だけあってメスの生成にかけては超一流であるが、麻薬に関しては素人であるため、売人を中心に様々なトラブルに巻き込まれる。
メタンフェタミンは明治時代に日本人が合成方法を発見した有機化合物であるが、当時は覚醒剤としての成分が知られていなかった。日本では医療用麻薬としてヒロポンの名前で広く知られている。高校教師がその覚醒剤作りに手を出して次々とトラブルに見舞われるわけだが、まあ当然だろう。

まだ途中までしか見ていないのだが、非常に面白いのでやめどきが分からなくて困ってしまう。

「ブレイキング・バッド」は普通の高校教師のオッサンがどんどん悪い世界に引きずり込まれていく様子が非常に興味深いのだが、ドラマの内容に付随してアメリカの健康保険や医療制度の実態を知ることもでき、それもまた興味深い。

アメリカの保険や医療の制度は先進国では最悪だとよく聞くが、本当に最悪だと思う。
主人公が肺がんを知ったとき、自分が加入していた健康保険では治療がカバーできなかったことが麻薬作りのきっかけとなる。アメリカの健康保険は月々の支払いが高額なくせに、受信できる病院や受けられる治療が契約によって指定されている。そのため、受けるべき治療であっても保険でカバーされないし金もないという理由で受けないアメリカ人が山ほどいるのだ。

そうでなくともアメリカの医療費は高い。一晩緊急入院しただけでウン百万円、MRIを撮影してウン百万円、手術をすればウン千万円。ブラックジャックが金持ちにふっかけるようなウソみたいな治療費だ。虫垂炎(盲腸)の手術が500万円で、保険が効いても100万円というレベルが当たり前。保険に入っていないか、入っていても保険でカバーされない治療はもちろん高額だが、保険でカバーされる治療でもやはり高額であるため、治療を受けない人が多いし、治療を受けても支払いができずに自己破産する人が多い。自己破産したアメリカ人の実に6割が、医療費が原因だという。

日本でも保険適用外の先進医療などを受ける場合は混合診療が受けられないため、歯科以外ではすべての治療が全額負担となる場合があるが、先進医療は金持ちだけが受けるもので、一般人で金がないからがん治療を諦めるとか聞いたことがない。国民皆保険であるし、保険料が安いうえ、保険でカバーされる治療も多種多様だ。手術費や治療費が高額になったとしても、高額医療費制度があるために月々の負担が数万円で済むことが多い。月々数百万円の支払いが必要になることなどまずない。

ドラマでは、主人公の義弟が麻薬取締官をしており、麻薬カルテルの男に銃撃されて入院する。撃たれた影響で下半身が不自由になるのだが、歩けるようになるためのリハビリにも保険の壁があった。保険で適用されるリハビリは週に2回だけ。いい療法士のリハビリを毎日受けるのは保険でカバーされないため、とても一般家庭では支払えないような額の費用が必要になる。
とんでもない話ではないか。

アメリカでは金がなければ満足に治療もリハビリも受けられない。金持ちでなければ病気も怪我もできないわけだ。「ブレイキング・バッド」はアメリカのこんなクソみたいな医療制度を教えてくれる。つくづく日本に生まれてよかったと思える。

TPPにアメリカが参加したり、日米FTAが締結されるようなことになると一番危惧されるのがこの医療制度の違いだ。トランプ大統領のアホな態度を見れば分かる。トランプは関税ゼロでも日本でアメリカ車が売れないのは、車検やディーラーなどの制度が非関税障壁になっているからとして日本を批判していた。売れないのはアメ車の性能の問題なのに、日本の制度の問題だとした。
同じように、アメリカの民間保険会社が日本市場に参入できないのは日本の国民皆保険制度だと言い出しかねない。

また、日本の薬価は厚生労働省が決定するのだが、これもアメリカの製薬会社から不満が出るに決まっている。アメリカの薬価は日本と比べて信じがたいほど高額だが、企業の希望が通るからであって、日本がアメリカの基準に合わされてしまうと大変なことになる。
また、ジェネリック医薬品も知的財産権の条項に引っかかり、販売が難しくなると見られている。

安倍首相はアメリカとのFTA締結を目論んでいるような感があるが、農業分野のみならず、医療の観点からも望ましくないように思えてならない。アメリカのような国はジャイアン的振る舞いをやめられず、自分たちの基準に他国が合わせるべきだと考えてしまう。特にトランプなどその典型だろう。

芸人のピース綾部のように、アメリカに憧れ、アメリカに住みたい、アメリカに永住したいと思う人が多いようだが、正直アメリカのどこがいいのかと思ってしまう。私は数年来高血圧の治療を受け、2か月ごとに8000円支払っていた医療費がジェネリック医薬品の適用で3300円になった。父親は心臓病や食道がんを患って、高額医療費制度の恩恵を賜った。
3割負担でジェネリックもあり、負担の上限もある日本の医療制度のありがたさを実感した以上、アメリカの医療制度なんかまっぴらゴメンだ。

高校教師ががん治療を受けられなくて覚醒剤製造に乗り出すドラマなんぞ、アメリカでしか誕生しえないだろう。
そんな国に生まれなくてよかった。対岸の火事はただ眺めるに限る。