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中学生から高校生の時分、私はかのオカルト雑誌「ムー」の読者だった。

「ムー」との出会いは忘れもしない、中学1年のときだ。父親と大阪市立科学館のプラネタリウムに行ったときのことだ。待ち時間があるので本屋に寄って雑誌コーナーを見ていたときに目に入ったのが「ムー」だった。そのときの巻頭特集は今でもハッキリ覚えている。「月は宇宙人が作った人工天体だった」という内容だ。

地球から見た月が太陽とまったく同じサイズで皆既日食が起きるのは、かつては宇宙人が使っていた宇宙船である月をその位置に配置したからだとか、月が地球から表面しか見せないとか、人工地震を発生させると数時間にわたって揺れるのは内部が空洞だからとか、もっともらしいことが書いてあって面白いと感じた。
今になって思えば、月が実は宇宙船で人工天体だという話はハードSF小説の傑作「星を継ぐもの」からアイデアを得たとしか思えないが、中学1年の私がそんなことを知る由もない。
「ムー」の面白さに取り憑かれ、それ以降6年くらい「ムー」を毎月買っていた。

高校生のときだったと思うが、大津市の西武百貨店で「ムー」の展示イベントがあったのでもちろん行った。様々な写真が貼ってあるなか、当時それなりに知られていたシンクロエナジャイザーという怪しげな機械の体験コーナーがあった。シンクロエナジャイザーは「ムー」に掲載されている広告でよく見る10万円くらいする機械で、横になってヘッドホンとゴーグルを装着し、音を聞きながらゴーグルの内側にあるいくつかの小さい電球がチカチカ点滅したりするのを感じる。それで瞑想したり、脳を覚醒化したりするのだという。
体験コーナーで15分くらいかけてやってみたが「なんやコレ」としか思えなかった。目を閉じておくべきなのか開いておくべきなのかもよく分からず、目を開けていたら眩しかったので目を閉じた。それで正解だったらしいが、目を閉じると瞼を通して電球がオレンジ色に明滅している。これがシンクロエナジャイザー。これでなにを覚醒させるというのか。

シンクロエナジャイザーなんかとっくの昔になくなったのかと思いきや、よく似た「ブレインマシン KASINA」というのが5万4000円でアマゾンで売られている。VRにするスマホを応用して安く作れないものかと思うわけだが、今でも5万円出してこんなもんを買う人がいるのだからオカルトは興味深い。

「ムー」ではユリ・ゲラーの企画もやっていた。付録に組み立てるとピラミッドの形になる台があり、そこに壊れた時計などを載せてテレビの上にピラミッドを置いておく。ユリ・ゲラーが何月何日の何時に力を送るので、壊れたものがどうなるか確認してくれという内容だった。半信半疑というか、壊れた時計がピラミッドとユリ・ゲラーのパワーで直るわけがないと思っていたが、一応やってみた。やってみないとどうなるか分からない。
結果は、やはりなにも起きなかった。

普段ごちゃごちゃと理屈っぽいので「ムー」の熱心な読者だったというと意外だと思われることがあるが、「ムー」の読者にはいろんなタイプがある。根っからのオカルト好きもいれば、懐疑派もいる。私は心霊やUMA(未確認動物)の類は嫌いで、宇宙人や超古代文明は好きだった。

今も昔も宇宙人が地球にいると信じているわけではない。宇宙人は広い宇宙のどこかにいるかも知れないが、それが地球に来ているとは思えない。文明が進んだ宇宙人が未開な地球人からコソコソと隠れる理由などない。わざわざ時間をかけて地球に来たのだから目的を果たすだけだ。その目的は地球人の観察ではなかろう。普通は植民地となる星の開拓で、その星にいる未開な生物なんぞ蹴散らすだけだ。新大陸を発見したヨーロッパ人が原住民になにをしたか考えるといい。
それに、かのホーキング博士が言っていた。文明を発展させた人類は1万年ほどで滅びるため、長い宇宙の歴史で宇宙人同士が出会うことなどないと。確かのそのとおりだろう。

けれども、宇宙人が地球にいると主張する人たちの論調は、心霊やUMAと同様に人を担ぐためのウソが多いものの話自体は面白かった。
宇宙人の話の中心は陰謀論だ。だから心霊の話と違って面白く感じるのかも知れない。

世の中にはあまたの陰謀論が存在する。陰謀論には人々の願望のようなものが込められている。悪い政府や悪いユダヤ人、悪い秘密結社などが存在すべきだという願望だ。
個人的には陰謀論のどれも疑わしいと思っている。アポロ11号が月に行っていないとか、9.11の世界貿易センタービルの倒壊はアメリカ政府の自作自演、その他ユダヤの陰謀、フリーメイソンの陰謀、ヒトラーやプレスリーが生きているという陰謀などなど。
世の中というのはもっと単純だと思えてならない。

米ドラマに「エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY」というのがある。現代のニューヨークを舞台にしたシャーロック・ホームズの話だ。そのなかで、性格がひん曲がっていて元麻薬依存症患者のホームズが「政府が主導する陰謀なんてない」と断言する。その理由は「バカすぎてすぐにバレてしまうからだ」というものだ。
実際、そのとおりではなかろうか。陰謀論が出てくるのは既にその陰謀が隠せない状態になっているわけであって、そんなものは陰謀ではない。世の中の悪巧みが漏れたものが陰謀論ではなく、なにもないところから捻り出されたものが陰謀論だ。人間にはなにもないところに意味や意義を見出してしまう特性がある。

ネバダ州のエリア51に回収された宇宙人の遺体や宇宙船があるとして、政治家や官僚がそれを隠し、さらに何千人もいる関連省庁の職員も家族から友人にまでうまく隠し通せるものだろうか。絶対に無理だ。
安倍政権が森友学園に便宜を図り、不正統計では財務省に経済をよく見せるよう命令したという話が出てくるが、政治家が官僚にそのような悪巧みを命令してうまくいくものなのだろうか。絶対にどこからか漏れるだろう。

陰謀が実際にあったとして、日本の安倍政権ではどうか知らないが、アメリカのトランプ政権では秘密を隠し通せそうにない。トランプ大統領はアホなのですぐに喋ってしまう。トランプは安倍首相からノーベル平和賞に推薦されたとバカみたいに自慢し、得意気にペラペラと話していた。
安倍首相が米政府からトランプ大統領をノーベル平和賞に推薦するよう要請を受けてやったようだ。ノーベル平和賞なんぞ、核兵器の削減を口先だけで訴えたオバマでも取れるのだから、誰が取っても構わない。トランプや金正恩が受賞しても不思議ではない。

安倍首相がアメリカのポチ同然に思えるが、実際はしっぽを振ったというよりも、アホなトランプの機嫌を取り、トランプがヘソを曲げないように対処したのだろう。こっそりとトランプのご機嫌取りをしただけなのに、当の本人がマスコミの前で話し、推薦状のコピーもあるなどと吹聴した。
バカ丸出しに見える恥をかかされた安倍首相は、目を血走らせて怒っているのではないのか。
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安倍首相の心中(イメージ)

このように、トランプは黙っていられない性分らしいから、知っていれば宇宙人やらエリア51の話をマスコミの前で喋ってしまうに違いない。なんならバイトテロの連中のようにツイッターでツイートしてしまうだろう。だからアホなトランプに側近が教えないという見方もあろうが、トランプは勘がよさそうだし、知恵が遅れているわけでもないからトランプに秘密を隠しとおせるとは思えない。トランプが各種陰謀論に関わることについて黙っているのは、彼がそれを知らず、それ自体が存在しないからではないか。
陰謀論には終着点がないので、「さすがのトランプも恐れる宇宙人」という論調になるかも知れないが、トランプが恐れるものがこの世の中にあるとは誰も思わないだろう。

人間は仮説を検証する際に自分にとって都合のいい情報ばかりを集めて、反証については無視しようとする。これを確証バイアスという。陰謀論もこの確証バイアスが多分に作用している。
人類の月面着陸はなかったという陰謀論が特に顕著で、星条旗が風にはためていているように見える写真や、影の向きがおかしいように見える写真だけを切り取って主張される。ならば、月までの距離を測定するために月面に置かれたレーザーの反射機は誰が設置したというのか。この測定の結果、月が地球から1年で3.8cm遠ざかっていること、月の中身は空洞ではなく液体状の核があることなどが分かっている。月は宇宙人の宇宙船のような人工天体ではなかったのだ。

月が宇宙人の宇宙船なら面白いが、世の中そんなに面白そうなことが転がっているわけがない。世の中に存在する陰謀論のすべて、もしくはほとんどすべてがウソだと言い切っていいだろう。
この世の中は退屈なのである。