20190311-1

8日(金)に金曜ロードショーで話題の映画「カメラを止めるな!」が放送された。昨年、300万円で作られた超低予算映画が大ヒットしてニュースになったが、金を出してレンタルしてまで見たいと思わなかった。こんなに早くテレビで放送してくれてありがたいと思って録画した。

ゾンビ映画を撮影する人たちの映画ということは知っていたが、それ以外は一切内容を知らずに見た。嫁さんは「見る気ない」と言ってリビングでスマホを眺めていたが、最終的には画面に釘付けに。それほど面白かった。
映画冒頭から流れる37分ワンカット撮影のゾンビ映画パートで「なんやコレ」と思った伏線があとで回収されて「なるほど」と唸らせる。なかなかよくできた映画だった。

海外では「One Cut of the Dead」のタイトルで公開されていて、映画批評をまとめたサイトのロッテン・トマトでは39人の批評家全員が好意的評価をして、トマトメーターが100%になっていた。

【ロッテン・トマト】One Cut of the Dead

「まったく新しいゾンビ映画だ」という評があった。「カメラを止めるな!」をゾンビ映画のジャンルに分類していいのかどうか微妙なところだが、ゾンビ映画として見ればこれまでにない斬新な映画であることは間違いない。

ゾンビ映画というジャンルを確立したのはジョージ・A・ロメロだろう。「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(1968年)が今のゾンビ映画の発端となり、「ゾンビ」(Dawn of the Dead)でゾンビの概念を世界中に知らしめた。
21世紀に入ってからはゲームを映画化した「バイオハザード」の大ヒットでゾンビブームが起き、「ゾンビ」のリメイクである「ドーン・オブ・ザ・デッド」では猛ダッシュするゾンビが登場するなど、新しい形態のゾンビが登場するように。「28日後…」や「ワールド・ウォーZ」のようにパンデミックの恐怖も描かれるようになった。
米ドラマ「ウォーキング・デッド」の大ヒットもゾンビ映画復興のきっかけになった。

ジョージ・A・ロメロが作り出したゾンビの概念は、噛まれることで感染することと、ゾンビが人を食うという一種のカニバリズムが特徴的だ。感染拡大の怖さもあるが、人肉食のタブーと恐怖が人々を惹き付けるのだろう。

人間が食料を欠く危機的な状況に陥った際に緊急避難的に死んだ人の肉を食うということは昔からしばしばあったが、社会制度や宗教的な慣習などに基づいて行われる食人文化はもうないらしい。食人族を描いた映画があるが、未開なたちを面白おかしく差別的に描いたものばかりで、その手の食人族は20世紀の始めにはいなくなったそうだ。

数年前に韓国で死んだ赤ん坊や水子の肉を使った中国産人肉カプセルが市場に出回り、刑事事件に発展したことがあった。中国や韓国は迷信を信じている人が一定数いるので、赤ん坊の人肉が滋養強壮にいいと信じる人の需要があるのだろう。世界でも稀な国である。

インドに北センチネル島という文明から隔離された孤島があり、そこに住むセンチネル族という部族は外部との交流が一切なく、島にやってくるよそ者を殺すそうだ。キリスト教のバカな宣教師がキリスト教普及のために北センチネル島に行って、速攻で殺されることもあった。
そんなセンチネル族なら人を食べそうな気がするが、実際は食べない。殺して埋めるだけ。

ゾンビ映画ほどではないにしても、食人族のテーマが好きな人が一定数いるため、食人族の映画が作られる。かくいう私も食人族映画は嫌いではないため、最近になってアマゾンプライムで食人族の映画を2本見た。
1本は「トマホーク ガンマン vs 食人族」(2015年)で、カート・ラッセル主演の超絶B級映画だ。西部開拓時代に食人族のネイティブアメリカンにさらわれた女性を助けるために立ち上がったガンマンが食人族を追いかける旅に出て、最後に食人族と戦うというアホみたいな内容だった。

もう1本は「グリーン・インフェルノ」(2013年)。イタリア映画の「食人族」(1981年)をモチーフにした映画で、アマゾンの自然や原住民の保護を訴える学生活動家が現地で抗議活動を行ったあと、自分たちが助けようとした原住民に捕まり、虐殺されて食べられてしまうというエッジの利いたストーリーだった。皮肉が込められたストーリーはよかったが、全般的にはただグロいだけだった。活動家の男が生きたまま両目をえぐり取られ、舌を切られ、両手両足を切断され、最後に首を切断されていた。

同じ食人系ホラー映画でも食人族の映画があまり出てこないのは、ただグロいだけの内容になるからだろう。ゾンビ映画のストーリーも大概ワンパターンであるが、食人族はもっと酷い。登場人物が酷い殺され方をして、主人公だけ命からがら逃げおおせるという話ばかり。未開で残酷という食人族という描写で共通していて、その描かれ方はなんのひねりもない。ゾンビは走ったり道具を使ったり知恵をつけたり進化しているが、食人族はいつまで経っても未開な土人だ。

「ガンマン vs 食人族」ではなく、武装した現代人と現代的装備を身に付けた食人族が戦う「SWAT vs 食人族」、怪獣や宇宙人と食人族が戦う「ゴジラ vs 食人族」「プレデター vs 食人族」、あるいは食人族がゾンビになって生きているのと死んでいるので食べ合う「食人族・オブ・ザ・デッド」くらい作ればいいように思うのだが、食人族の映画は数が少ないうえにどれもこれも似たり寄ったりで小さくまとまってしまっている。
食人族が主人公で、侵略してくる現代人や宇宙人と対峙し、食人族を応援したくなるような映画があってもいいではないか。

ゾンビ映画はいろんなパターンのゾンビが出てきて、ゾンビ映画というジャンルのなかでコメディから真性ホラー、アクションまで多岐多様なジャンルに分かれる。ゾンビになった青年が主人公の映画もあった。
食人族も題材的にはゾンビと似たようなものなのに、映画はどれも駄作で、内容はワンパターン。ゾンビ映画のように発展しそうにない。
誰かまったく新しい食人族映画を作ってくれないものだろうか。最近の映画は似たようなものが多いので、ここらへんで新たなジャンル開拓があってもいいように思う。