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クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナウイルスに感染した患者が新たに44人見つかり、3711人の乗客乗員のうちこれまでに713人がウイルス検査を受け、うち218人が感染していた。
これは香港でげ船を降りた最初の感染者である爺さんが218人に感染させたスーパースプレッダーというよりも、船を停泊させて乗客を船から降ろさせなかったことで感染が拡大したと見るのが自然だ。

日本政府は武漢から邦人らを脱出させたチャーター便での対応が批判され、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客を降ろさなかったわけだが、結果的に船内感染を広め、感染者を増やすことになってしまった。
感染者の入国を水際で防げたという見方もあるかも知れないが、実際そうだったかは分からない。この手の推測に答えなんかない。

文春オンラインで医師がダイヤモンド・プリンセス号での集団感染について書いていた。この医師は乗客乗員6000人のクルーズ船で新型肺炎患者2名が出た際、イタリアが12時間で足止めしていた乗客を解放し、結果的に何もなかったことを引き合いに出していた。

【文春オンライン】新型肺炎174人の集団感染「クルーズ船3700人隔離は正しかったのか」――医師の見解は? (2020/02/13)

ダイヤモンド・プリンセス号について同じことをやっていたらどうなっていたかは神のみぞ知るという感じだが、船の停泊と乗客の足止めによって感染が広がったことを考えると、映画でよくあるシチュエーションが思い浮かぶ。宇宙船に未知の生物が侵入してきたり、毒ガスや放射能汚染が発生し、その部屋のドアを閉じてロックするものの、中に取り残された人が見殺しにされてしまうというアレだ。
クルーズ船の乗客にはお気の毒というほかないが、こんなことになる以上、今後誰がクルーズ船でのんびり船旅をしようと思うのだろうか。誰か新しい病気にかかったら船室で隔離され、船は寄港すら許されずさまようことになったりする。
そのうち船内で乗客のイライラが募り、乗客同士で殺し合うという内容の映画が作れそうだ。

そうかといって、3700人を船から降ろしたところで「どうぞご自由に」と家に帰したらまた国民から批判が起きるだろうし、2666人の乗客のうちの半数は外国人で、外国人に勝手に母国に帰れというわけにもいかない。
3700人をどこぞで隔離するにしても、そんな大人数を個室で収容できる施設がないし、別々の施設に入れるにしてもどっちにしても空きがない。
どうすりゃいいのか分からないし、どう転んでも悪くなりそうな予感しかしない。

ネットを見ていると「さっさと全員分のウイルス検査をしろ」という意見が多いが、テレビでやっていたウイルス検査の方法を見ると簡単ではなさそうだった。
ウイルスの検査にはPCR検査という手法を用いるという。要するに遺伝子の検査を行うらしいが、その検査を行うのは機械で1時間ほどで済み、一度に96人分の検査が可能だという。だが、その検査のためには被験者の喉の粘膜などの検体からRNAを取り出すのは手作業しかなく、それに1時間かかるという。だから、一度に96人分検査できるといっても、96人分の検査をするために述べ96時間の作業が必要だというわけだ。その手作業をする人が96人いて、同時にやれば1時間で終わるが、そんなにいるわけがない。結局、一連の検査に5~6時間かかり、大学の研究室で1日30検体くらいしか調べられないという。

政府は1日300件ウイルス検査できる体制を1000件に増やしたと胸を張るが、現場の人間からすればとても無理な話だという。気合いでやれと言っているようなもんだし、作業員が増えたとて、正確な作業ができなければ検査の意味がない。だから体調がよくない人から順次やっていくしかない。毎日100とか200くらいになるわけだ。
3700人一気に調べられればいいが、それができずに小分けにやるしかないのなら、検査結果を待っている間に感染してしまうかも知れず、それだとまた検査のやり直しだ。
何でも言うだけなら簡単であり、これは仕事でウンザリするほど目にしてきた状況だ。

どういう理屈か知らないが、世の中には「頑張ったらもっとできる」と考えているヤツがいる。いわゆる根性論だが、根性でどうにかなる仕事がこの世のどこにあるのだろうか。毎日だらけて仕事をし、1日10だけやっている仕事なら気合いを入れて頑張れば30くらいになるかも知れない。しかし、普通の人はそれなりに頑張って仕事をしているわけであって、それで10ならめちゃくちゃ頑張っても12くらいだろう。法律無視で労働時間を伸ばせば15くらいにはなるかも知れない。
「作業員に頑張らせるのではなく、作業員を増やせばいい」というのも机上の空論だ。誰でもできる仕事、どこでもやれる仕事出ないかぎり、そんなことは不可能に近い。
「努力すればできないことなどない」という考え方があるが、現実には努力してもできないことの方が多いではないか。

専門家でもないのに問題に口を挟むのもよく仕事で見かける状況だ。問題解決のために顧客と打ち合わせして策を練っていたら、顧客の上司がしゃしゃり出てきて、原因はこうではないかとか、こうやるべきじゃないかと名探偵コナンばりに名推理を働かせようとすることがある。ハッキリ言って、邪魔なだけである。

新型肺炎の対応について事後で批判するのは簡単だが、その対応に当たる当事者からすれば必死にやったのにどう転んでも責められる状況にあることは気の毒に思う。
それでも、政治や行政がそうやって批判されるのも仕事のうちだから仕方のないことなのだろう。ホテルに隔離されたチャーター便の搭乗者やクルーズ船の乗客が辛抱を強いられているのと同じように、対応に当たる人たちも辛抱せねばならないわけだ。

どんな仕事をやるにしてもストレスだらけ。仕事をやるのはつくづく大変なことだと思う。