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新型コロナウイルス(COVID-19)の全世界の感染者数が2月13日に1万5100人という大幅増になった。これはPCR検査による確定診断の判定が出なくとも、CTスキャンで肺炎の症状が出ていれば感染者と認めると中国国内での基準が変わったせいだ。

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中国のこの決定は明らかに問題だった。統計の基準を変えてしまうとデータとしての信頼性が損なわれてしまう。実際、13日14日両日で2万1600人も増えたからか、この基準が見直されることになった。それも問題で、一時的に基準が変わり、元に戻るとますます分からなくなってしまう。
これを書いている時点での全世界での感染者数は8万2150人であるが、実際はもっと多いはずだ。中国では病院がパンクして検査はもちろん診察を受けられていない人が相当数いるはずだし、アメリカのような皆保険でない国では診察すら受けていない隠れ感染者がいるに違いない。
感染者の大部分は中国人であるが、中国の統計がいまいちアテにならないことを考えると、そこから致死率を計算したところで意味があるのかと思ってしまう。
中国で感染者がもっと多いのであれば、分母が大きくなるから致死率はぐっと下がる。

韓国ではここ数日で感染者数が爆発的に増えて1595人になった。イタリアでも数日で453人になった。
韓国と同様に地理的に中国に近く、中国人の出入りも多い日本がダイヤモンド・プリンセス号を除いて189人の感染者でとどまっているのは誰もが疑問に思うところである。

韓国の場合、大邱市の新天地イエス教会なる新興宗教の礼拝が原因で多くの信者に感染し、そこから市中感染が爆発的に広まった。
イタリアでは上海帰りの知人と食事をしたイタリア人が起点となり、そこから感染が広がった。普段マスクをしないし、手洗いなども適当な欧米人の間で感染が広がることは容易に予想できる。
日本では宗教の大規模な礼拝での感染がたまたま起きず、マスクなどの感染予防が広く実施されているから市中感染が思ったほど広がっていないと考えることができるかも知れないが、運よく偶然にそうなっていると考えるのはあまりにも都合がよすぎで、多分間違いだろう。

韓国では新型肺炎のPCR検査を1日に1万件も実施することができるという。それに対して日本では先月末までは1日300件、今月に入ってようやく1000件になった。
数日前の加藤厚労相の発表では、1日最大で3830件の検査が可能だという。それによると、17日までは国立感染症研究所400件、全国の検疫所580件、地方衛生研究所1800件だったが、18日以降は民間検査所5か所で900件、大学で150件が追加され、1日最大3830件なのだそうだ。

ただ実際は、本当にその数を検査できるのかは不明だ。厚生労働省が数日おきに発表している数値では1日100人から200人くらいが検査を受けているようで、26日までの検査人数は1890人にとどまっている。患者ひとりが複数検査を受けていることもあるため、実際に検査を何件やったのかは分からないが、現状で挙げられている3830件というのは希望的観測を込めた数値でしかなく、あてにされた民間の検査所や大学では疑問視する声が挙がっている。

韓国の場合、MERSで多くの死者を出したこともあり、検査体制が整っているという。日本は数合わせの強引な数値が挙げられているだけで、実績がなく心許ない。そのうえ、検査をなかなかしないという実態もあり、これでは単にPCR検査をしていないから感染者数が少ないと海外から受け止められても仕方がない。

新型コロナウイルスに感染しても無症状や軽症の人がかなりの数いるため、中国や日本では感染者の数字よりももっと感染が広がっていると考えるのが自然だ。韓国やイタリアの場合、確定診断された人の濃厚接触者がどんどん検査されて結果が出ているせいで数が増えているのだろうと思うのが普通だ。
イタリアは検査数を公表していないが、韓国ではこれまでに5万件以上の検査が行われている。さらに、新天地イエス教会の信者20万人以上にPCR検査を受けさせるとしている。

だから日本でも韓国のようにもっと検査をすべきだという声が挙がるのは当然かも知れない。多くの人がPCR検査を進めない厚生労働省や政府に対して「感染者数を低く見せるためではないか」と批判しているが、ことはそう単純ではないらしい。

26日(水)のYahoo!ニュースのトピックとして取り上げられて注目されたバズフィードの記事がある。

【バズフィードジャパン】新型コロナ、なぜ希望者全員に検査をしないの?  感染管理の専門家に聞きました (2020/02/26)


読んだ人が多いと思うが、記事の中にある「検査の感度(感染している人のうち検査結果が陽性となる人の割合)と特異度(感染していない人のうち検査結果が陰性となる人の割合)がトレードオフになる」とか陽性適中率に関する話が理解できない人がほとんどではないか。私も意味がよく分からなかった。
この検査の感度や特異度について、五本木クリニックの院長が詳しく書いており、それが分かりやすい。

【五本木クリニック】新型コロナウイルス感染をPCRで判定しても、様々な問題が発生する可能性があります。 (2020/02/19)

例に挙げられたダイヤモンド・プリンセス号の3700人の乗客乗員のうち、962人が新型コロナウイルスに感染して、2738人が感染していないと仮定する。
感度95%だった場合、962人のうち914人が陽性となり、48人が感染しているのに陰性と判定される偽陰性となる。つまり、この偽陰性の48人は感染していないと診断されてしまう。
特異度が95%の場合、感染していない2738人のうち2601人は陰性と判定され、137人は感染していないのに陽性と判定される偽陽性になる。この137人は感染していないのに隔離されることになる。

新型コロナウイルスのPCR検査に関する感度や特異度は分かっておらず、バズフィードの記事にあるように感度が30~70%であれば、そもそものPCR検査にかなりの問題がある。偽陽性の人が必要もないのに隔離されることはその人の運が悪かっただけでまだ許容の範囲だとしても、偽陰性を隔離しなければ感染拡大は防げない。
感度が100%でない限り、全数検査を行うことでかなりの数の偽陰性が出てくる。検査の数を増やせば増やすほど、偽陰性の人が増えるわけだ。
偽陰性であっても数週間にわたって誰とも会わず、どこにも行かなければいいのかも知れないが、実際にはそうはならない。自分に当てはめて考えてみるといい。念のために用心はしても、陰性と判定されているから会社員なら仕事に行く人はいるだろうし、専業主婦でもちょっとした買い物くらいはする。家族と同じ家にも住むだろう。

五本木クリニックの院長が「半可通の人が全数検査をしろと主張している」と批判めいた言い方をしているが、キヤノングローバル戦略研究所の専門家も同様の指摘をしており、「集団スクリーニングは対象をハイリスク集団に絞って行うべきである」としている。

【キヤノングローバル戦略研修所】新型コロナウイルス感染症との闘い ー 知っておくべき検査の能力と限界 (2020/02/12)

この専門家は、かつてエイズウイルス感染で社会不安が起きたアメリカの例を挙げ、偽陰性の問題があるからアメリカで集団スクリーニングを行わない決定があったとし、なんでもかんでも検査すればいいものではないという事例があるにも関わらず、メディアの報道にそれがまったく活かされていないとしている。

検査の精度を高めるために検査を受ける人を選別する必要がある。だから熱が続くとか、肺炎の症状が出て新型肺炎が疑われる状態になって検査対象となるわけで、「検査数を少なくして感染者を低く見せかけている」なんて話は陰謀論ではないか。
また、どんどん検査を実施する韓国について韓国人が自画自賛しているわけだが、感染者の炙り出しには功を奏しているものの、その裏で偽陽性と偽陰性の人をたくさん排出していることを思えば、それが正しいとは必ずしも言えない。
全数検査を主張する人たちは多少のブレが起こってもいいからやれと言うが、疫学的にはそのブレが問題になるわけであって、なんでもかんでもやりゃいいってものではない。

結局のところ、検査をしようがしまいが感染の疑いが晴れないので、感染の可能性が高い人は他人に感染させないようマスクをしたり手洗いを徹底するなどの策を取るしかない。感染の可能性が高くなくても同様だろう。
だからどちらかというとPCR検査体制の拡充に注力するよりも、厚生労働省などの役所はマスクの在庫確保に努めた方が賢明なのかも知れない。

「簡易検査キットを早く開発しろ」という話も出ているが、インフルエンザの検査キットのように特異度98%で感度60%ならば、偽陽性となる人は少なく済んでも、PCR検査以上の偽陰性の人をたくさん生み出すだけになるだけで、それが感染の拡大防止に繋がるとは思えない。

ここらへんの感度や特異度の話を含めた新型コロナウイルスに関する検査の特性を厚生労働省がちゃんと説明せず、メディアも単に不安を煽るだけだから、「全数検査をしろ」と騒ぐ人が増え、「政府の陰謀だ」などという話に発展するのだろう。
説明したところで理解しない人が多いかも知れないが、説明しないよりマシだろう。韓国を除き、シンガポールや台湾、タイ、ベトナムなどでこれまでの検査数が概ね1000~2000件にとどまっているのは疫学的な理由もあるわけだ。

国民をバカだと思って説明しないことは得策ではない。理解できない、あるいは理解するつもりがない人はどうせ騒ぐだけなのだから、放っておくしかない。そのかわりに理解する人が増えれば、その分説明をしたかいがあるというもんだ。
厚生労働省は後手後手に回っていると批判されるが、対応のもたつきや間違いがいくらかあったとしても、致命的なほど間違っているわけでもない。これまでの対応でもっとも大きな間違い、職務怠慢を挙げるとすれば、感染が疑われる症状が出ている人がPCR検査をなかなか受けられなかったことと、詳細な事情説明をしていないことではなかろうか。