20200329-1

今年の年越しで嫁さんと大喧嘩をした。喧嘩というか、嫁さんが私にキレてしまった。

年末年始は仕事で台湾にいて、12月31日の夜遅くにホテルで台湾のテレビ局が中継している年越し番組を見ていた。台湾では台北や台中、高雄といった都市で多くの歌手が出演する年越しライブが開催され、それがテレビ中継される。
私がもっとも好きな台湾人歌手で、1年前の新譜発売のサイン会にも行った王心凌(シンディ・ワン、37歳)という歌手が台中のイベントに出演するので台中の中継を見ていた。
台湾時間の午後10時45分頃にようやく登場したので見ていたら、10時50分くらいになって嫁さんからLINE通話が入った。日本時間では午前0時前で、年越しの話をしようと事前に決めていたからだ。
だが、私は王心凌がテレビに出ているのをスマホで撮っていて、「今シンディがテレビに出てるから、あとでかけ直す」と言って切った。10分くらいの出番だと思っていたが、終わりそうになかったので日本が年越しを迎える3分くらい前にかけ直したら、嫁との会話よりテレビに出てる王心凌の方が大事なのかと嫁さんがキレてしまった。正月早々不機嫌にさせてしまい、数日間は険悪な雰囲気になってしまった。

台湾では年末年始の気分が一切味わえてなかったので、年越しの意識がまったくなかった。普段のLINE通話くらいにしか考えてなかったから悪いのだが、もっと悪いことに、せっかく台湾で中継が見られるのだからと思って見ていたが、後日テレビ局が各歌手ごとの中継をYouTubeにアップしていた。いつでも見られるようになるのだから、必死になって見る必要はなかったのだ。

それはともかくとして、私がそこまで好きな王心凌がInstagramに「十二街洗手挑戰」という手洗いの動画をアップしていた。


台湾の黃瑽寧という医師が考案した手洗いの手順で、内(手のひら)、外(手の甲)、夾(指の間)、弓(指の腹)、大(親指)、立(指先)、腕の部位に分けて手を洗うようにしている。
ハッシュタグには「石鹸での手洗いはアルコールでの手洗いに勝る」、「ハッピーバースデーの歌2回分が手洗いの時間」とあるように、本来なら石鹸で30秒以上かけてやる手洗いだ。

台湾では先週あたりからこの「手洗いチャレンジ」をSNSでやる人が増えてきており、著名人にも広がってきている。
日本ではYouTuberのヒカキンが「#うちで過ごそう」というハッシュタグで不要不急の外出を訴え、トレンドワード1位になったそうだが、有名人のこういう呼びかけは効果がある。できれば家にいろと言うだけじゃなく、手洗いの方法など具体的に役に立つような情報発信の方がいいと思うが、なにもないよりは断然いいだろう。

SARSなどの感染症を経験した台湾は防疫がもっとも成功している国といっても過言ではない。韓国が「他国から防疫モデルを指導して欲しいという依頼が殺到している」と自画自賛しているが、死亡者144名の韓国と、韓国の半分の人口ながら死亡者2名の台湾ではどちらが防疫に成功しているかハッキリしている。にも関わらず、台湾は自画自賛したりせず、防疫体制を緩めることもない。

先週も紹介したYouTubeの番組「木曜4超玩」で、今週は出演者がめちゃくちゃ変な座り方をしていた。手を広げて当たらないくらいの距離を取っているらしい。この後、全員で前のテーブルでインスタント麺の試食をしたりしていたので、あまり意味がないのだが、心意気だけは伝わってくる。

20200329-2

日本の芸能人は「さっさと国民に現金給付しろ」などと政治に不平不満を漏らしているヤツが多いが、影響力があるつもりなら文句を垂れる前に手洗い動画などもっとマシなことを世間に広めたらどうかと思う。

台湾では防疫が成功しているためか有名人の政権批判はほとんどなく、一般人も防疫に非常に協力的だ。
私が出張で行った台湾の半導体工場では、新型コロナウイルス騒動以降に社員も工場の工員もマスクの常時着用が義務付けられていて、そこに出入りする会社の事務所もマスクの常時着用が必要だ。仕事の間、ずっとマスクを着けていないといけないので不快このうえないが、職場での感染拡大予防には間違いなく効果がある。

台湾がここまで防疫に成功しているのは、ひとえに民進党政権のおかげだろう。蔡英文総統には決断力や指導力があった。もしこれが中国寄りの国民党政権だったなら、今頃ズタボロになっていたかも知れない。
また、政府機関の衛生福利部で部長(日本でいう厚生労働大臣)を務める陳時中という人物の安定感がすごい。1月下旬から毎日1時間から2時間の定例会見を行うタフさから「鉄人部長」と呼ばれており、さらに安心できる人の意で「定心丸」とも呼ばれているという。

台湾の中時電子報が彼の何がすごく、何が「定心丸」と呼ばれる所以なのかネットで分析されていたことを記事にしていた。

【中時電子報】陳時中厲害在哪?網推5「定心丸」特質

5つ挙げられていたのだが、真っ先に挙がり、もっとも重要視されているのが「くどくなく、簡単明瞭、専門用語を使わず、聞く人に疑問を与えない」というものだった。
かつて歯科医師で、今は政治家として防疫の陣頭指揮を取り、異常なほどタフでありながら、人々に分かりやすい説明ができる陳時中部長は台湾人の9割以上に支持されているという。

多くの民衆に理解させるには回りくどくなく、シンプルに話をする方がいい。「詳細はほかを見ろ」で構わない。日本の政治家や官僚は言質を取られないようにした含みのある言い方や、逃げを用意した言い回しが好きで、さらに御託を並べて聞く方をウンザリさせる話を好む。

安倍首相が滑舌が悪いのは仕方がないとして、記者会見でイマイチ煮え切らず、どっちとも取れたり、憶測を呼ぶような言い回しをするのはよくない。
28日(土)の記者会見で「事業を継続していただくために、あるいは生活をしっかりと維持をしていただくために、現金給付を行いたいと考えています」と言いつつ、「国民全員ではなくターゲットを絞ったうえで思い切った額」と言っていた。これでは自分が受け取れるか受け取れないか不安になるだけなので、最初から言わない方がいい。もしくは「現金給付する」と言っておき、あとで「ただし金持ちを除く」と言っていいのではないか。
あとから責められることを考慮しての発言だが、こんな言い回しは平時にやっておけばいい。

もっと最悪なのが小池都知事で、東京都民に危機感を与えるためにいろいろ呼びかけているのはいいのだが、B級映画の邦題みたいな「ロックダウン」とか、サッカー用語みたいな「オーバーシュート」とか耳慣れない言葉ばかり用いているのは最悪ではないのか。「都市封鎖」とか「感染爆発」といった刺激的な用語を避けるためと見られているが、会社のアホな経営幹部がビジネス誌を見て覚えたカタカナ用語を使うようなもんで、逆にアホみたいに見えてしまう。

かつて小泉純一郎が総理大臣として国民にウケていたのは、「ワンフレーズ政治」が受け入れられたからだった。国民はダラダラとした話に耳を傾けるほど堪え性がないのだから、短い言葉で語った方が伝わりやすい。ワンフレーズという短さでは問題だろうが、簡潔な方がいいに決まっている。
今こそ政治家が、短く、簡潔に、分かりやすく国民に話すことが重要ではなかろうか。