20200709-1

先月発売の集英社の文芸誌「kotoba」の2020年夏号がスティーヴン・キング特集をしていたので購入した。
私は小説はほぼキング作品しか読まないと言っても過言ではなく、著名人のキングファンがキングについて何を語るのか興味があった。

【集英社】kotoba

キング作品の楽しみ方は人それぞれで、同じキング好きでも好きな作品が違うし、キングが好きな理由も人によって異なる。非常に興味深い内容だった。
ドラマ化、映画化されたキング作品の一覧もあって役に立つ情報も多かった。

一番最初にキングを語っていたのが漫画家の浦沢直樹だった。キングのイラストまで描いていたが、内容はどうということはなかった。というのも、彼はキングの作品を買ってはいるが長らく読んでおらず、古い作品を数点読んだだけだからだ。
キング作品を読んでいないのにキング好きを公言し、キングについて文芸誌で語れるのだから、なかなか肝の座った男だと思う。

私がキングを好きな理由は、実はよく分からない。何がいいのか自分でもよく分からないが、面白いものが多いから読んでいるという感じだ。
キング作品は特徴があって、登場自分物の生い立ちやら心理描写をめちゃくちゃ掘り下げる。ストーリーに直接関係のない話が多く、タランティーノの映画のようでもある。ムダに長い心理描写のせいで進行が遅くなるのは、福本伸行の漫画と同じだ。

キングの小説はモダンホラーとされているが、ホラーという表現で合っているのかは疑問だ。超常現象が恐怖がテーマになっているため、ホラーというくくりなのだろう。
私がキングの描く恐怖で印象的だったのが、ある短編で描かれた強迫神経症の男の話だ。その男は町中を歩きながら人の足の数を数えていたが、ある日片足がない人を見かけてから、数えた足の総数が奇数になって気になって仕方がなくなる。
共感できない人もいるだろうが、強迫神経症の気が少しでもなるのなら、そんなことがあるかも知れないと共感することになり、それがちょっとした恐怖に感じる。その恐怖がどんどんと広がっていくのがキングの小説の特徴だと思う。

キング作品は高名な文学というよりもB級グルメのような大衆的な文学だ。バカにする人はいくらでもいる。それを養老孟司のような人が褒めるのだから、それだけ魅力があるということだ。プロレスをバカにする人がいる一方で、プロレスを熱く語る人がいるのと似ている。

そんなキングであるが、ジジイの割にはツイッターでバンバン自分の意見を発信していて、政治的な発言もあるが、自分が見たドラマや映画で面白かったものの紹介もある。
昨日8日には、アマゾンのプライムビデオで配信されている「ハンナ ~殺人兵器になった少女~」について、「シーズン1はとてもよかった。シーズン2は素晴らしかった」と評していた。シーズン2は少し前に配信が始まり、私もシーズン2を見始めていたところで、キングが評価をしているので続きを見るのが楽しみになった。

また、昨日は日本の映画「カメラを止めるな!」を絶賛していた。「ポール・トンブレイが教えてくれた。もし君がゾンビ映画を全部見たと思っているなら間違いで、オリジナリティがあってとても楽しかった。ありがとう、ポール」とツイートしていた。


これには自身もキングの大ファンである上田慎一郎監督が感激し、ツイートに対して返信していた。
「カメラを止めるな!」は近年の日本映画にしては独創的で面白かった。しかも300万円という低予算で作ったのだからスゴイ。それをキングに褒められて上田監督が舞い上がっていたのも当然に思える。

キングのフォロワーから「私も好きな映画」と多く書き込まれているのもよかったのだが、キングのツイートに対する反応を読んでチラホラ見かけて気になったのが、「Train to Busanもいいよ」というツイートだ。
「Train to Busan」は「新感染 ファイナル・エクスプレス」という邦題の韓国映画のことだ。正直「なんでそれを勧めるのか」と腹立たしい思いに駆られた。

「アジアのゾンビ映画」というくくりで書き込んだのだろうが、「新感染 ファイナル・エクスプレス」はアジアでスマッシュヒットしたとはいえ、作品の毛色としては全然違う。あちらは普通のゾンビ映画で、KTXで逃げようとする人の話だ。電車の中でゾンビとごちゃごちゃ揉めるという以外特に目新しさはなかったし、ラストの展開もイマイチだった。
「カメラを止めるな!」はゾンビ映画ではなく、ゾンビのドラマを撮影しようと奮闘する人たちのコメディであって、それを称賛したキングに向かって勧めるような映画ではない。

最近はアニメを除くドラマや映画で韓国のエンタメ業界に勢いがあり、日本のダメさ加減が目立っている。こうやって目立つことができた少ないチャンスで、そこにも韓国映画がしゃしゃり出てくるのだから目障りで仕方がない。
韓国映画がそれだけ広く知られていて、日本映画も韓国映画もアジア映画として一緒くたにされているのが現実なのだろうが、それを如実に感じるキングのツイートになってしまった。
これほど残念なことがあるだろうか。