20201023-1

私はこれまでの人生でインフルエンザワクチンを接種したことがなかった。今まで帰宅後に石鹸でしっかり手を洗ったりしていなかったが、これまでにインフルエンザにかかったのは2回だ。これが多いのか少ないのか分からない。
ワクチン接種しておけば感染したときに軽症で済むと聞くが、私は体温が40℃を超えていてもマクドナルドのビックマックセットを食べられるほど熱に強いので、過去2回の感染でもそれほど苦しまなかった。
インフルエンザワクチンは1回の接種で3千円くらいかかる。勤め先の健康保険組合から2千円の補助が出るので千円で打てるわけだが、予約を取って病院に行くのが面倒臭いし、千円であっても感染を完全に防げるわけではないのでコスパが悪いように思えてならなかった。

しかし今年は国がワクチン接種を推奨しているので打つことにした。とはいっても、近所の病院ではなく勤務先にワクチン接種のために医師が来るので、その日に予約を入れて会社でやることにした。
コロナとインフルの両方で感染拡大すると医療崩壊に繋がりかねないという理由で推奨されているが、コロナが警戒されているこの時期にただの風邪をひくだけでも出勤などで面倒なことに鳴る。元々、1週間程度の休みが必要になるインフルエンザにかかったらもっと面倒なことになるだろう。
自分のためにもインフルエンザワクチンを接種することにした。

韓国で今冬向けのインフルエンザワクチンを接種したことでこの1週間で32人死んだというニュースがあった。韓国では常温輸送してしまったインフルエンザワクチンを打ってしまったというニュースがあったが、それとは別の問題だ。
ワクチンと死亡原因の因果関係は不明だ。ワクチンのロットによって偏っているという情報もあるが、単に別の疾患で死んだ人がその直前にインフルエンザワクチンを打っていただけかも知れない。

韓国のワクチンがどうなのか知らないが、こういうことが起こるとまたぞろ反ワクチン主義者が騒ぎ出す。世界中にはワクチンを信用しないどころか、人間に害悪をもたらすものと信じて疑わない人が多い。自分で勝手にそう思っているだけなら構わないが、他人に虚偽を吹聴したり、ワクチン接種の反対運動をするからタチが悪い。

江戸時代後期に日本でも始まった天然痘のワクチン接種では、ジェンナーが発見した牛痘種痘法が行われていた。そのため、西洋医学を信用しない当時の日本人には種痘をすると牛になると信じでいた人がかなり多く、種痘の実施や種痘所の開設にさまざまな嫌がらせや偏見があった。
反ワクチンを主張する連中は、200年前にいた「種痘を打てば牛になる」と信じていた人たちと何が違うのかと思ってしまう。

ワクチン接種には少なからず副反応がつきもので、稀に重篤化してしまうことがある。反ワクチン派はそれをよしとしないわけだが、反ワクチン派の主張が猛威を奮ったのが子宮頸がん予防ワクチンの接種だった。
過去には女子生徒への定期接種が行われていたが、重篤な副反応が出た例だけをマスコミが過剰に報道し、反ワクチン派がそれに乗じて「HPVワクチンは危険」と宣伝したため、子供に危険なワクチン接種をさせているという認識が広まってしまった。
そのため、厚生労働省もワクチン接種を推奨から外さざるを得ず、その結果、最大で80%近くあった接種率が2002年度生まれ以降は1%を切ってほぼゼロになってしまった。

大阪大学の調べによると、その影響で2000~03年度生まれだけで1万7千人が子宮頸がんに罹患し、うち4千人がそれによって死ぬであろうという予測が立っている。
子宮頸がん予防のワクチン接種で重篤な副反応が出るのは数万人から10万人にひとり程度なのに、ワクチン接種が行われなくなったことによって毎年度の女子生徒が将来的に4千人子宮頸がんになり、千人が子宮頸がんによって死ぬわけだ。

よその多くの国では子宮頸がん予防ワクチンの接種が普通に行われているというのに、ここでもゼロリスクを振りかざすアホな日本人のせいで毎年千人もの救えるはずの命を救えず、使わずに済んだ医療費も使われることになる。
日本でのみ子宮頸がんワクチン接種中止の勧告が出たりしたことに

ワクチンによってごくごく少数の人に重篤な副反応が出るとして、それが気になる人は普段どんな思考をして暮らしているのかが気になる。
交通事故によって国内で毎年3千人が死んで、それ以上の数の人が重い障碍が残る怪我を負っている。子宮頸がん予防ワクチンが気になるなら、交通事故を気にして車に乗ったり、外を出歩いたりできなさそうなもんだが、そちらはあまり気にならない。

そんな極端な例を出さずとも、リスクに対してのリターンを考えればワクチン接種はした方がいい。ワクチン接種しなければ副反応で大変な目に遭うリスクはゼロになるが、子宮頸がんのリスクをほぼゼロにすることができない。自分の子供に一生処女として貞操を守らせるのならそれでいいかも知れないが、がん予防のリターンとワクチンのリスクを比較したらどうするべきかは分かりそうなもんだ。
なぜそんな簡単なことが分からないのだろうか。

植田まさしの古い4コマ漫画で、学生が授業中に「なんで数学なんか勉強せなアカンのか」と突然発狂し、それに対して教師が「将来バカを見るからだ」と答えている漫画があった。
数字に弱いその男は将来結婚して赤ん坊が生まれるが、赤ん坊をあやす男のそばで妻が指を折りながら「どう計算してもこの人の子供じゃないのに」と考えているというオチだ。

日本にはこういう数字でものを考えず、何が得で何が損かの判断ができない人間があまりにも多いと思う。主観的にしかものごとを捉えられず、一度危険だと刷り込まれてしまうとそこから抜け出せなくなってしまう。
数字に弱く、客観的にものを見ることができない人間は将来バカを見る。

こんな国民性だから、新型コロナウイルスのワクチンができたところで接種が進まないに決まっている。実績のあるワクチンですらゼロリスクが幅を利かせて忌避されるのに、できたばかりのワクチンなのだから余計だ。勤務先でワクチン接種を強制されて反撥する人々の様子が思い浮かぶ。
新型コロナウイルスの場合はインフルエンザのようにリスクとリターン、コスパを自分で考えて打つ打たないを決めたらいいと思うが、多分そんなことにはならない。子宮頸がん予防ワクチンのように悪いことばかり吹き込まれて接種規模が小さくなり、一部の人が接種を強制されて人権云々の話に発展して社会的に混乱が起きそうだ。

ワクチンのできも気になるが、仮に完璧なワクチンがあっても日本では接種が進まなさそうなことに溜め息が出てしまう。