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26日(月)に行われた卓球男女混合ダブルスの試合は本当に面白かった。水谷隼と伊藤美誠が中国ペアを破って見事金メダルに輝いた。これまで五輪の卓球で32回の競技中、中国が28回金メダルを取っており、特に2008年の北京後輪以後は全競技で金メダルを独占する状態だったのを破っての金メダルだ。これほど嬉しいことはない。
最初に2ゲーム先取されて「ヤバい」と思ったが、そこから3ゲーム連取し、最終ゲームで得点を先行させて勝利した。

中国は5年前のリオ五輪のときから日本の台頭を警戒しており、伊藤など日本人選手に見立てた選手を練習用に育成までして対策を練っていた。
中国が必ず勝つと思われていて、国営の中国中央電視台は中国のSNSである微博(ウェイボ)に自動で「中国ペアが卓球男女混合で金メダルを獲得」「初代金メダル」「国旗が掲揚され、国歌が鳴り響いた」という五輪速報を掲載するようにしており、日本時間午後9時40分にそれが掲載されてしまい、大恥をかくことになった。

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日本に負けてさぞ悔しがっているだろうと思い、微博(ウェイボ)を見に行ったら思っていたのと様子が違った。
中国メディアが報じたニュースに対し、コメント欄が「水谷隼吹球了」(水谷隼がボールを吹いた)のコメントで大荒れだったのだ。下の画像と同じ書き込みが山ほど付けられていた。

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「吹球」とはピンポン球に息を吹きかける行為で、卓球選手なら誰もが普通にやる行為だ。サーブを打つ前にピンポン球に息を吹きかけて湿り気を取ったりするのだが、単純にクセのようになっている選手もいる。
その「吹球」であるが、国際卓球連盟(ITTF)の規定によって国際大会で禁止されることになった。理由は新型コロナウイルス感染対策である。

試合のテレビ中継で、選手が要求して卓球台を拭いてもらうシーンで「感染対策から選手自身が拭けない」と解説されていた。それと同じで、ピンポン球を吹く行為、選手が声を出す行為、関係者が応援で声を上げる行為も禁止されている。
違反すると一度目はイエローカード、二度目はレッドカードとなって1点失うことになっている。
そんなルールを知らなかったので注視していなかったのだが、水谷隼は2~3回はサーブの前に右手で持ったピンポン球に息を吹きかけていたようだ。

それ以外に、伊藤美誠に関しても禁止事項であるテーブルを触る「摸桌」「摸台」をしていたというコメントも多くあり、ルールに厳密に従っていれば中国ペアに点が入り、流れが変わって中国が勝っていたはずだというのが中国人の考え方らしい。
おかげで、伊藤美誠のインスタグラムが中国からの罵詈雑言の書き込みで溢れかえっていた。

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逆に中国の選手がピンポン球に息を吹きかけたり台を触る行為をしていたかどうか知らないが、もし仮に水谷や伊藤だけがやっていたとしても、中国チームがその場で指摘するべきであって、負けてからゴネてどうにかしようとするのはみっともない。中国人のなかにはスポーツ仲裁裁判所に訴えて水谷と伊藤の金メダルを剥奪すべきだと本気で考えているヤツがいる。

敗れた中国ペアの許昕は試合後の記者会見で伊藤美誠について「伊藤は女性選手のなかでもワールドクラスの選手であり、試合中に徐々に私の打つ球に順応してきた。彼女は男性選手と敢えて戦うことを選択したアスリートで、大胆で勇敢だと思う」と評価していた。選手自身が日本のペアに対して苦言を呈することをしていないのに、中国の外野がゴチャゴチャうるさいのは残念だ。

ちなみに、選手の声出しも禁止されているが、許昕は得点後に「チョレイ」みたいなことを叫んでいたし、水谷も雄叫びを上げていた。中国の関係者が観客席から「加油」と大声で声援を送っており、これらは厳密にいうとすべて禁止行為である。

ルールがあり、スポーツでそれを厳密に解釈して全部適用してしまうとめちゃくちゃになってしまうことが多い。卓球ではサーブの際に少し斜めにトスをしたり、球の回転を読ませないためにインパクトの瞬間を顔や体で隠して見せないようにする選手が多いが、厳密にはそれもルール違反だ。選手はそのギリギリのグレーゾーンあたりを攻めるわけで、全部違反にしたらつまらなくなってしまうのは間違いなかろう。

それにしても謎なのが、卓球の国際大会で球に息を吹きかけるとか、台を触るという行為が禁止されるようになったことである。中国の卓球協会の会長がそれを懸念して中国チームに対応するよう指示していたそうで、それがあったので中国がやたらそこにこだわっているようだ。実際、五輪前の練習試合で中国選手がイエローカードをもらったことがあった。

ずいぶん前から、新型コロナウイルスは飛沫での感染がほとんどで、接触による感染はかなり少ないことが分かっているのに、理解できないルールだ。こんなことを言い出したら、柔道やレスリング、ラグビーといった身体的な接触のある競技は一切できなくなってしまう。

卓球台を触る行為が禁止されているが、中国ペアの許昕も劉詩雯もサーブのときにピンポン球を持つ腕を卓球台に載せていたが、これがOKで手のひらで触る行為がNGなのが理解できない。肘はOKで手首より先はNGとなっているのと同じ理屈だろうか。

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卓球選手が卓球台を触るのは手汗を拭うためにやることが多い。だからプレイに影響が出ないようピンポン球が落ちないネット近くに手をついたりするのだが、そういうのを含めて禁止するというのであれば、6点ごとにしかタオルを触れないというルールを改正し、いつでもタオルで手だけは拭えるようにすべきだろう。時間稼ぎをさせて対戦相手のタイミングを崩させないようにするのは理解できるが、あれこれ禁止にするのはいろいろと問題があるように思う。

結局のところ、感染対策と称して科学的に根拠がないことを「やった方がいいだろう」というイメージでやっているだけではないのか。球に息を吹きかけることによって飛沫が付着し、そこに含まれる新型コロナウイルスで対戦相手や会場の係員が感染するかも知れないことが想像はできるが、それが実際に起こり得ることだろうか。絶対に起こらないことはないだろうが、起こる確率も限りなくゼロに近い数字ではないのか。そんなことのために感染対策として余計な禁止事項が増えることに大したメリットはないように思う。

なんのためにやっているのか分からないルールほど鬱陶しいものはない。昔から慣習的にやっているのならまだしも、今から始めるとか愚の骨頂のように感じる。
中国人は日本がルールを破ったせいで勝ったと思っており、余計なトラブルを引き起こしただけだった。なんとなくの雰囲気で作ったルールなんぞクソの役にも立たないのだから、やめてしまった方がいい。