写真共有サイトのInstagramで相互フォローしている香港人のアカウントが先週の26日(金)から投稿内容にだいぶ変化が出てきた。
これまでは食べ物とか犬の写真ばっかりだった人が、香港の中環(セントラル)を占拠しているデモ隊の写真をアップするようになった。警官隊と小競り合いをしているデモ隊の様子、占拠した道路上で座り込んで抗議活動をする学生などの写真がアップされ、29日の夜から明け方にかけては、夜通しでライトを持った人たちが抗議を続ける写真がアップされた。
緊迫感を感じるこれらの写真には、香港人のほか、台湾人からも「加油」(頑張れ)、「天佑香港」(香港に祝福あれ)、「天佑民主」というコメントが付けられている。
ニュースによると、これまでに香港の学生らが数十人逮捕され、デモ隊に催涙スプレーや催涙弾などが容赦なく浴びせられた。さすがに警棒や盾で殴ることはなかったが、酷いもんである。
デモ隊の多くが雨傘を差し、「雨傘革命」と名付けられた今度の香港のデモの発端は、中国政府が2017年からの次期香港行政長官について、「指名委員会」を通じて候補者を絞り込むようにすると発表したことである。
「指名委員会」は間違いなく中国政府に近い存在ばかりで占められるため、選挙で行政長官を選ぶのだとしても、候補者が中国政府のお眼鏡にかなう政治家ばかりでは選挙の意味がない。
香港は1997年の返還以降、中国政府自体が「50年は制度を変えない」と明言し、「一国二制度」が維持されるはずだったのに、たった20年でそれが崩れることになったため、民主主義的行政の維持を望む香港人が立ち上がった。
ただ、デモ隊の殆どは大学生、高校生などの若者である。年寄りは中国共産党の恐ろしさをよく知っていて、中共には従っていればいいという従属的な考えの人が多いし、社会人は香港の経済さえ何とかなっていればいいという打算的な人ばかり。仕事を休んでまでやるようなものではないと考えているようだ。
香港の主要な大学の学生らは、授業の無期限ボイコットを掲げてデモへの参加を呼びかけており、一部の大学や教授らがそれを支持している。
中国は10月1日から国慶節の大型連休に突入して7連休となる。その間にデモ隊の参加人数は増えるだろうし、大陸から香港への旅行客は困りそうだ。元々、香港人は大陸の中国人を快く思っていない者が多く、そんなことはお構いなしだろう。
これで難しい判断を迫られているのが中国政府である。香港の金融不安によって世界経済に影響を与えており、放っておけば放っておくほど世界から注目されることになる。
また、今度のデモは香港の独立とは関係ないが、いずれは香港独立運動に発展する可能性があるし、そんなことになればチベットやウイグルに波及するのは明らかだ。
かとって、世界から注目されている上、香港はメディアやインターネットが中国政府の取り締まり下にないため、制御できない。催涙弾を使った鎮圧だけで世界から非難を浴びているので、もっとやるとより問題視されることになる。
台湾の議会占拠では、政府側が一部折れて、学生運動のリーダーと話し合いを持ち、妥協点を探ったが、中国政府がそのようなことをするわけがない。
これ以上香港でデモをさせ、それが中国のほかの地域に波及するという最悪の事態は死んでも避けたいから、確実に鎮圧するために今後はもっと強く出てくるに違いない。
香港の学生らはここからが正念場である。
中国政府は既に規制を始めている。
大陸では金盾というネット検閲システムによって、TwitterやFacebookといったSNSに簡単にアクセスすることはできないが、写真共有サービスのInstagramはこれまで制限がなかった。InstagramはFacebook傘下のサービスである。
だから中国人も多くがInstagramをやっていて、私と繋がっていたのも幾らかいたが、香港のデモ騒動以降、中国国内でInstagramがブロックされてしまった。
幸いにも香港は金盾の範囲外にあり、TwitterでもFacebookでも自由にできたが、香港人は大陸の中国人向けにInstagramでメッセージを発信していた。香港では民主化を求めて民衆がデモをしていることを写真で示し、「香港を占拠せよ」というタグを付けた。
それがたった1日にして中国政府に全部ブロックされてしまった。上海在住の中国人が少し前に「Instagramもそのうち金盾の対象になる」と恐れていたが、それが現実のものとなってしまった。
中国版Twitterの微博(ウェイボ)では香港の民主化デモの詳細を知ることはできず、メディアも香港の立場で報道しない。「暴徒が香港の道路を違法占拠している」などと伝えているだけである。
だから、中国人が香港のデモの様子を知る機会が大幅に減ってしまった。中国での論評は見られるが、香港の生の声が届かなくなってしまった。
中国政府はとりあえずやるべきことはやったつもりなんだろう。中国国内で一度ブロックされたInstagramは、もう二度とアクセスできるようにならないかも知れない。
ただ、中国人もバカではないので、中国政府のこのような情報制限にただ従っているわけではない。都合の悪いことを隠しても、インターネットがあれば隠しきれるわけがない。
情報制限が通用したのは、インターネットが普及する以前の20世紀までだろう。
今後、中国政府が望むようなインターネットの制限が奏功するとは思えず、一波乱も二波乱もあるに違いない。
香港人は、インターネットの自由があり、民主主義を知っているから、中国政府に刃向かって立ち上がった。大陸に住む中国人は民主主義を知らないが、香港人が必死になって民主主義を維持しようとしている姿を見れば、民主主義がどれほど重要かを理解するだろう。
中国という一党独裁の国を内部崩壊させる足がかりとするためにも、香港の民主化デモを応援せねばならない。