アメリカ・フロリダ州の高校で起きた銃乱射事件で、高校の警備担当警官で保安官代理のスコット・ピーターソン(54)なる人物がトランプ大統領から名指しで批判された。最初の発砲から1分半後には現場に到着していながら、校舎外に4分以上とどまって校舎内に突入しなかったためで、トランプ大統領は彼を臆病者呼ばわりした。
ピーターソンは無給停職処分を受けて辞職したが、のちに弁護士が声明を出し、「ピーターソン氏は臆病者ではなく、あの状況下で景観の規範にもとる行動をしたという見方は間違っている」とした。
彼は発砲が屋外であったものと認識し、屋外での発砲事件に関する警察の行動規範どおりに他の警官に伝えるために身を隠して状況評価を行っていたと主張している。
銃撃犯との撃ち合いをしたくなくて突入しなかったのか、犯人が屋外にいると思って状況確認していたのかどちらか知らないが、屋外云々はあと付けの理由のような気がする。
映画の主役なら状況確認もせずに校舎に突入して撃たれながらも銃撃犯を射殺するだろうし、ただの登場人物なら撃たれて死ぬだけだろう。複数の自動小銃と拳銃で武装した銃乱射犯がいる現場に闇雲に突入できなくて誰が文句を言えるだろうか。
彼の上司である保安官は「校舎に入って殺人犯を殺すべきだった」として彼を処分したが、世の中そう単純な話なのだろうか。
結果的に彼の処分はやむを得ないとしても、大統領が直々に名指しで批判するような事案ではないような気がする。
にも関わらず、トランプはピーターソンを臆病者と罵って打ちのめした。返す言葉で「自分なら丸腰でも突入した」と言う。
エディ・マーフィなら丸腰で犯人と対面して、口八丁で取り押さえるかも知れないが、現実にそんなことは無理だろう。突入して死ぬだけ。丸腰でも突入すべきだったと大統領が保安官代理を批判するということは、「生き延びて恥を晒すくらいなら、死んだ方がよかった」と言っているのに等しい。
「自分なら丸腰でも突入した」という主張は絵空事であり、誰でも「んなアホな」「できんのかよ」と思うに違いない。口で言うだけなら誰でもできる。
そうやってバカにされることを分かっていながら発言するのだから、トランプは本物のバカか、煽り上手の人物かのどちらかだ。
トランプは自分にできそうにないことを他人に強要するという典型的なパワハラを平気で行う。トランプは「気合いでなんとかしろ」と言ったに等しいが、それと似たようなことは社会生活を送るうえでよくある。
上司や顧客が「なんとか仕事を間に合わせろ」と言うことなどしょっちゅうだろう。これまでの経験則で、どう考えても期限内に間に合わないことが分かっているのに、とにかくどうにかしろと言う。顧客がメチャクチャ言うのは仕方がないとして、リソース配分やスケジュール調整、責任を取ることが仕事の管理職が下の人間に向かって「気合いでなんとかしろ」と言うのだからタチが悪い。自分の役目を放棄して、下の人間に圧力をかけることが仕事だと勘違いしている。
世の中のものごとのうち、99%は気合いでどうにかなるものではない。日本だけでなく海外でも根性論めいた問題解決法が示されることがあるが、気合いや根性でどうにかしようとするのは間違いだ。
アメリカの高校での銃乱射事件で、17人も死んだのは警官が校舎に突入しなかったからではあるまい。根本的な問題は、誰でも簡単に銃が手に入る世の中であることだ。
なにかの問題があったとして、その問題を解決するには表面上の問題を拭い取るだけでは真の解決には至らない。勇気のある警官を高校に配備すれば、17人の被害者が5人くらいで済んだかも知れないが、根本的な問題の解決ではない。
トランプは教師に武装させると主張しているが、それも根本的な問題解決ではない。学校が非武装だから銃で襲撃されるのは間違いないし、教師が武装していれば反撃を恐れてやめるヤツも出てくるかも知れない。しかし、教師が先に射殺され、教室に籠城されたらおしまいだ。
銃が簡単に手に入ることが根本的な問題であることはトランプ大統領もよく分かっているはずだ。だが、全米ライフル協会の支持を得る大統領としては銃を批判しにくいし、銃規制もままならない。その代わりに、別の問題をあぶり出し、責任転嫁しているだけである。臆病な警官がいて、そいつのせいだと主張すれば簡単でいい。
これは、先の例で言うと部下にメチャクチャ言う上司も同じだろう。人手不足や仕事の進め方の問題だと分かっているのに、そちらには手を付けられない。だから部下にプレッシャーをかけ、もっと働かせて問題の解決を図ろうとする。ほかに責任転嫁させておしまい。
要するに、トランプもパワハラ上司も能なしということだ。正しい問題解決ができないヤツがリーダーでは組織の先行きが思いやられる。