総務省のホームページに選挙について説明しているページがあり、そこに「総選挙とは、衆議院議員の全員を選ぶために行われる選挙のことです」との説明がある。
【総務省】なるほど!選挙 - 選挙の種類
これまで特に意識したことがなかったのだが、なんとなく「総選挙=衆議院議員選挙」だと思っていた。改めて言われてみれば、衆議院は議員全員を選挙で選び直すので総選挙であり、参議院は議員の半分しか選び直さないので総選挙ではないことが分かる。
この「総選挙」という言葉についてGoogleで検索すると、上位の検索結果がAKB48グループの選抜総選挙に関するものばかりになる。今年もAKBの選抜総選挙が現在開催中で、そのニュースも上位に検索結果の表示される。
私はAKBなど日本のアイドルには疎いのでよく知らなかったので「選抜総選挙」について調べてみた。「選抜総選挙」の直近にリリースされるシングル曲を歌うメンバーを人気投票で決めるイベントであるらしい。上位メンバーが選出され、1位になったメンバーはセンターポジションが与えられる。上位メンバーになれば歌番組にも出演することになって露出が増える。ファンはお気に入りのメンバーを上位にするべく投票をする。
これのどこらへんが「総選挙」なのだろう。現代の選挙のイメージとはずいぶんとかけ離れていて、もっとも重要なはずの平等選挙の原則が欠けている。
平等選挙では選挙人はひとり1票だけ投票権を持っていて、仮に複数票投票できたとしても、1票あたりの価値が平等でなければならない。納税額が多いカネ持ちだからとか、貴族だからたくさん投票できるのならば、それは平等選挙ではない。
AKBの「総選挙」はCDを買えばそのなかにシリアル番号が書かれた投票券が入っているわけで、カネさえ出せば出した分だけ票が与えられるのだから、選挙でもなんでもない。
ただの投票券付きCD売り上げランキングであり、キャバクラやホストクラブでキャバ嬢やホストの売り上げによって店でのランキングが上下するとのまったく同じだ。キャバクラやホストの売り上げランキングは誰も総選挙とは言わないのに、秋元康ら運営側が語呂がいいので「総選挙」だと主張して「総選挙」として定着してしまった。
AKBのアホなイベントにいちいちツッコんでも仕方がないのだが、いい加減「総選挙」から「人気投票」などに名称を変えてもらいたい。メンバーのなかの人気者が1位になるわけではなく、ファンがどれだけ投票したかによるので、実際は「人気投票」でもないのだが。
今年はそのAKBの「選抜総選挙」が「世界選抜総選挙」と銘打たれ、タイのBNK48、最近発足した台湾のTPE48のメンバーらも立候補できるようになった。海外グループでもっとも歴史があるインドネシアのJKT48は、結果発表日がイスラム教のラマダン明けの長期休暇のレバランと重なるため、宗教的な理由でメンバー全員が立候補を辞退した。
以前にBNK48がタイで大ブレークしているとのエントリを書いていたこともあって、BNK48はどうなったのかと思って調べたら、いろいろ驚くことがあった。
まず、昨日5月30日(水)に発売されたAKB48のシングルに投票券が付いて、CD発売日に誰が何票集めたかの速報が公表されるのだが、それでBNK48のメンバーふたりが発表圏内に入った。
ミュージックというBNK48のシングル3曲のうち2曲でセンターを務めたメンバーが3493票を集めて120位。BNK48のリーダーで、タイ国内でもっとも人気があるメンバーのチャープランが4315票を集めて101位だった。ちなみに、1位は新潟のNGT48の荻野由佳で59531票を集めた。
まあそんなもんかと思った。毎年100位までしか発表しないのに今年は120位まで発表したのは、「世界選抜」と銘打ったのに外国人メンバーがひとりもいないというお寒い事態は避けたかったのかも知れない。
BNK48のメンバーは、立候補でのアピールコメントのYouTube再生回数がAKB本体のメンバーより圧倒的に多かったのだが、タイ人が見ていただけなので投票には結びつかなかった。
驚いたのはここではない。BNK48のメンバーに投票したタイ人の実態を知って驚いた。タイでもBNK48のシングル曲がCDで発売されたばかりなので、それに投票券が入っているのかと思っていたが、外国で発売するAKBグループのCDには投票券が入っていないのだという。
BNK48のメンバーは少ない日本人ファンからいくらか票は集めたが、大部分はタイ人ファンからの票だ。タイ人のファン代表がファン仲間からカネを集めて来日し、CDを購入できる5月29日に何千枚も買って手動で投票したのだという。あるいは、タイの業者が日本にCDを買い付けに来て、なかに入っている投票券だけをタイ人に販売、それとは別に握手券もタイ人に販売する商売もあるという。
いずれにしても、タイ人に日本のCDを買わせているわけで、ずいぶんとアコギな商売をしているではないか。投票するファンも好き好んでやっているわけだが、それでもタイの物価を考えれば日本の1枚1600円は高すぎる。タイの平均月収は10万円ほどで、コンビニの時給は150円にも満たない。
タイのファンは推しメンをランキングで上位にするより、自分がグッズをもっと集めたいという実利主義が多いようなので、「世界選抜総選挙」なるアホなイベントに踊らされているのが多くないのだが、それでも発売初日に何千枚もタイ人にCDを購入させた。とあるファンは5000枚購入したという。
これのなにが「世界選抜総選挙」なのか。よその国のAKBグループのメンバーが立候補できるというだけで、その国のファンには実質的に投票権がない。投票したいのなら、日本に来て日本のCDを買うか、自国で日本のCDを輸入するか。CDを買って投票券を手に入れたとしても、日本語の説明しかない。グローバル化を謳ったアンチグローバルである。
インドネシアのレバランを考慮しない日程を組んだことも含め、AKB48グループの運営は海外に対するなんの配慮もなく、結局は単なるカネヅルくらいにしか思っていないのかも知れない。
芸能サイトのネット記事だとBNK48のチャープランまたはミュージックの選抜メンバー入りもあるかもと書かれているものがあったが、多分それはないだろう。せいぜい1~2万票集めておしまい。ほかに立候補しているメンバーも100位圏外に埋もれておしまい。これほどムダなカネの使い方があるだろうか。
日本人のファンをカネを使っているわけだが、こんなイベントにカネを使わせてしまってタイ人に申し訳なく思ってしまう。ファンを競わせてカネの巻き上げるこのシステムを考えた胴元の秋元康は集金マシンとして天才かも知れないが、海外にもこの恥ずべきシステムを輸出し、外国人からもカネを巻き上げる銭ゲバぶりに辟易してしまう。
正直なところ、AKB商法がタイで問題になって国際問題に発展すればいいと思う。
こんなバカげた「総選挙」をそのまま海外にも展開して、外国人からカネを巻き上げているのは日本の恥でしかない。