ケーブルテレビのJ Sportsでスーパーラグビーの日本チームであるサンウルブズの試合をときどき見るが、まあ勝てない。1年に15試合して1回か2回勝てるくらいの勝率だからしょうがない。
ラグビーは野球やサッカーと違って番狂わせが起きにくい。強いチームがゴリゴリ押していく試合をするのだからそうなるのは当然だ。弱小チームはスクラムで勝てないし、試合中にランとパスでトライできるという奇跡は何度も起きない。そんなラグビーで「世紀の番狂わせ」と呼ばれ、今でも語り草になっているのが2015年ラグビーW杯イングランド大会での日本対南アフリカだ。
南アフリカは世界ランク3位でW杯に2回優勝したことがある強豪国だ。W杯で最高勝率を誇る国であり、それに対する日本はW杯で最低勝率の国だった。日本は過去にジンバブエに1回だけ勝ったことがあるだけで、W杯通算成績1勝21敗2分だった。南アフリカがこの100年間で北半球の国で負けたのはウェールズとイングランドだけ。
番狂わせが起きにくいラグビーで優勝候補の南アフリカと最弱国の日本が戦うのだから、現地のブックメーカーは南アフリカを1.001倍、日本を112倍のオッズにしていた。
どう考えても日本の負けだったが、その日の日本は違った。29対32という接戦で試合時間残り30秒のとき、日本がペナルティを得た。ラグビーではペナルティ後にいくつか選択肢があるのだが、普通ならばショット(ペナルティーゴール)での3点を選ぶ場面だ。
ところが、主将のリーチ・マイケルはここでスクラムを選択する。試合で勝てば勝ち点4、引き分ければ2、負ければ1(7点差以内の負けのため)。
スクラムのあと、南アフリカのペナルティを犯したのだが、日本はここでもスクラムを選択した。試合時間の80分を超えており、ここでトライできずにプレーが途切れたら即敗戦の状況だった。
そんな状況で日本はプレーを継続させ、最終的に世紀の逆転トライを実現させ、35対32のスコアで南アフリカに勝利した。引き分けを選択せず、勝か負けるかというギリギリの攻防で勝ちを手繰り寄せたわけで、観客をしびれさせたのは間違いない。
結果的に勝ったので万々歳だったが、負けたとてリーチ・マイケルの選択を責める人は少なかっただろう。そのくらいいい試合だった。
3年前のラグビーの試合を昨晩のサッカーW杯の日本対ポーランド戦を見て思い出した。
終盤、日本が0-1で負けていたが、同時進行のコロンビア対セネガル戦でコロンビアが1-0とリードしたため、試合時間の残り10分以上を負けている日本チームがボール回しによる時間稼ぎに徹した。そのままいくと日本とセネガルは1勝1敗1分で並び、得失点差も同じだが、警告数の差で日本が2位になって決勝トーナメントに進めるからだ。
負けているチームがボール回しをして、ポーランドも大して追って来ず、観客のブーイングだけが競技場に響くような状態だった。
結局試合はそのまま動かず、セネガルの試合もそのままで、日本が決勝トーナメント進出を決めた。
作戦勝ちというところだが、後味が悪い試合だったのは間違いない。もしボール回しをしている間にセネガルが得点を入れれば敗退していたわけで、たまたま結果オーライだったに過ぎない。
案の定、世界中のメディアから日本は総スカンだ。ルールに違反しているわけではないし、ルールを利用しての戦略的敗戦だったが、卑怯だと叩かれまくっている。
確かにそうだとは思う。引き分け狙いだったならまだしも、他会場のコロンビアの勝利にすべてを賭け、負けているチームがボール回しをするのだから文句を言われても仕方がない。
前回優勝国のドイツに勝って一泡吹かせて調子に乗る韓国でも、メディアが「日本はフェアプレーの精神に欠けている」と日本を痛烈にバッシングしている。3試合でのファイル数が63で32か国中1位、イエローカード10枚で2位の国が、ファウル数28で32か国中32位、イエローカード4枚で20位タイの日本に「フェアプレーしろ」と説教しているわけだ。
そんな国にフェアプレーについて説教されることほど恥ずかしいことはない。
「勝てば官軍」というけれど、みっともない試合だったのは間違いない。個人的には勝てばなんでいいという考え方は受け入れがたい。こういう話が出ると、甲子園での松井秀喜5打席連続敬遠も思い起こされる。
ただ、結果として決勝トーナメント進出を果たした。ルールの範囲内でやっていたことで、あそこで引き分けを狙いに行ってポーランドのカウンターを食らって2点目の失点でW杯が終わってしまう可能性もあった。
あんなつまらない試合になるなら負けてもよかったという考え方もあると思う。ラグビーW杯の南アフリカ戦で、ショットではなくスクラムを選択して負けたとしても仕方ないとなったはずだ。ポーランド戦で日本が得点を狙いに行って失点し、グループリーグ敗退しても今ほど批判は少なかったかも知れない。
これについての受け取り方は人それぞれであり、この手の議論に答えなんかない。多くの人が「しょうもない試合」だと受け取るだろうが、一方で「最後の作戦はしょうがない」と思う人も多いだろう。しょうもないことはしょうもないが、16強進出する作戦でもあった。
とはいうものの、次の試合のハードルが高くなったことは間違いない。日本はコロンビア、セネガルといい試合をして評価されたのに、ポーランド戦で全部ぶち壊して悪役になってしまった。ポーランドより遥かに格上で調子のいいベルギーと戦って惨敗すれば、なんのためにあんなことまでしてグループリーグを突破したのかと言われかねない。
だから死ぬ気で次の試合に望むしかない。
それを考えると、西野朗監督の勝負師としてのバクチが恐ろしく感じる。ポーランド戦では次を見据えて主力を休ませるために先発メンバーを6人も変えた。武藤や宇佐美、酒井高徳がよくなかったこともあり、0-1の状態で負けてるのにパス回し作戦を強いられる。別試合のセネガルが得点したら終わりの状況で、コロンビアに自分たちの運命を託したも同然で、背水の陣にもほどがある。
次のベルギー戦で日本が惨敗するようなことになれば、さらにバッシングされるのは間違いない。そのベルギーは3戦目のイングランド戦で主力を休ませても1-0で勝った国である。
どこまで自分を追い込んで試合に臨むのだろう。
ギリギリのところを攻めているこの感じは、まるで福本伸行のバクチ漫画を見ているかのようだ。
外野としてはサッカー日本代表のプレーに一喜一憂するだけでなく、西野監督のギリギリの選択と采配も楽しんだほうがいいのかも知れない。