経済産業省所管の日本エネルギー経済研究所が今月発表した「原子力発電の再稼働の有無に関する2012年度までの電力需給分析」という資料によると、日本中の商用原発を全て停止した場合、2012年度における一般家庭の電気料金は、2011年度に比べ18.2%上昇するという。平均値で計算すると、1000円強だ。

このニュースが流れたとき、「月1000円の電気代アップで済むなら、さっさと原発なくせ」との世論が吹き荒れた。
ついでに、どういうわけか「原発がなくても代替発電所の稼働で電力が足りる」と書いているブロガーも多くいた。資料にはそんなこと全く書いていないのだが、一体どういうことなのだろうか。

電力が足りていて、月平均5800円の電気代が6800円になるだけだったら、原発はすぐにでもなくしてしまっていいかも知れないが、実際はそうではない。
「月1000円」しか見えていないヤツは、自分ことしか考えられない低能にしか見えない。電気を使うのは、てめえの家だけではないのだろうに。

資料によると、家庭用電気料金は18%の値上げで済むが、それが産業用になると36%になるという。電気代を月に何百万、何千万円も払っている工場などにとっては、36%も電気代を値上げされたらたまったもんじゃない。
しかも、安定供給されているのならまだしも、このままでは来年の夏季には全国的に決定的な電力不足に陥ることは間違いなく、供給不安定による停電などがあった場合、おちおち工場を動かすこともできない。
半導体の工場などは、1秒の瞬停でもその後のライン検査に数時間を要するため、計画停電なんか以ての外だし、一時的な停電も許されない。

ここへきて、大手企業では国内工場の生産ラインを海外に移管してしまおうという動きが活発になっている。電力供給が不安な上、電気代上昇が確実な日本でもの作りなんかできないというわけだ。
工場を管理する社員は海外工場への転勤になるが、工場に勤めている作業員はもちろん全員クビになる。

また、原発停止による火力発電等稼働によって、排出されるCO2は1990年比で18.7%上昇する。余計に排出して京都議定書の排出枠を超えたCO2は、排出取引によって金で解決せねばならない。その額、年間1兆円だ。税金を1兆円使って、虚業としか言いようのないアホみたいなCO2取引で、クソみたいなよその国に金を搾り取られるわけである。

もちろん、火力発電の推進によって、原油価格やLNGの価格も上昇するため、ガソリン代や灯油代、ガス代に跳ね返ってくる。

日本エネルギー経済研究所の資料にある1項目だけを見れば、「1家庭あたり月1000円の負担で原発廃止可」に見えてしまうが、実際は問題が多すぎる。
実際、その資料にも、「(原発の)安全性の確保を最重要課題としつつ、原子力発電の再稼働問題を真摯に検討することがわが国にとって喫緊の課題になる」とある。

「月1000円」に踊らされて、産業用の電力のことを考えられない人間は、もの作りに関わったことがなく、製品のコストとか原価とかを全く考えたことがない人なんだろう。

反原発を唱える人の中には、節電のためにエアコンを止め、「暑ければ窓を開ければいい」と言うヤツがいる。
日本の職場は殆どが夏季に猛烈な暑さになる。窓を開けてどうこうなるものではなく、仕事をしたことがないニートの発言に思えて仕方がない。

週末に行かされたトラブル対応のための出張先は、東電管区内で、その会社では社員の人が皆ウンザリしていた。
私が詰めていた実験棟は冷房が効いていたためよかったが、一般の事務所は休日や時間外に冷房が入らないため、「とてもじゃないが仕事ができない」と言って、その社員が実験棟にノートPCを持ち込んで、資料作りなどをしていた。

原発を動かせば済む話なのに、しかも原発を一時停止しても安全でも何でもないのに、ガマンを重ねる必要があるのだろうか。今はまだ暑くなりかけだからいいかも知れないが、実際に7月の梅雨明け後、皆が本当にガマンしきれるのだろうか。

暑さだけでなく、税金を毎年1兆円余計に払っても、ガソリン代が値上がりしても、仕事をクビになっても、ガマンできるのであろうか。
日本人はガマン強い民族だが、そこまでガマン強いのだろうか。私にはそうは思えないのだが。

どう考えても、急激に脱原発に進めるわけがない。何の調整もせずにいきなり脱原発に向かえば、ヒドイことになるに決まっているのだが、反原発の人たちは、「どんなに酷い目に遭っても、福島で酷い目に遭った人よりマシだ」という。
結局それも、個人の話だ。個人的に酷い、酷くないはそうかも知れんが、国家レベルで見れば、急激な脱原発はマイナス以外の何ものでもない。どんなプラスがあるのか。一部の人間が何となく納得するという、ただの感情論でしかない結果しかないではないか。

脱原発は1年で進めるもんじゃなく、20年、30年のスパンで進めるものだろう。
そのガマンはできないのか。