つい数か月前の話。
私が会社で使っているメインPCの調子が悪くなったので、上司にお願いしてマザーボードなどを一新して貰うようにした。
うちの会社は信じられないくらいドケチなので、持ち出しで会社で使用するものを買うことが多い。今使っているPCケースやキーボードなどは自腹で買ったものだ。

さすがにマザーボードやらHDDやらは自腹では買いたくないので、上司から購入の了承を貰った。だが、予算は低いので、最新マザーや最新CPUなどは買えない。

AMDのチップセットを使ったGIGABYTEのマザーボードと、AMDのCPUを買おうとしていたら、その話を聞きつけたもっと上の上司が私のところまでやってきて、勝手にお勧め構成を私に押し付けてきた。
この上司は、以前に書いた、残業代を従業員に払わないくせに「お前ら給料貰いすぎ」だと大幅に社員の士気をを下げる発言を全体会議でした鬼上司だ。

その構成は、マザーボードがFOXCONNの「A7GM-S」というのが含まれていた。おかげでテンションがた落ち。
何故、自分のPCのマザーボードに、FOXCONNなどという二流マザーボードを使わないといけないのか。

FOXCONN は、PS3、XBOX360、Wiiといった据え置きゲーム機器のEMS(生産委託)を受ける会社で、ゲーム業界での EMS事業のシェアはものすごいが、PC業界ではクソみたいなもんだ。所詮は、コネクタなどを細々と作っていたメーカなのである。

しかも、上司が勧めてきたFOXCONNのマザーにはシリアルポートがない。今どき、シリアルポートなんかいらないのが普通だが、ソフトウェア開発の現場では、シリアルポートにデバッグ出力するのが当たり前なので、なくてはならい。あとでPCIエクスプレスのボードを差すのとかもいろいろ面倒が多いのでNG。オンボードが望ましいのだ。

しかし、上司が勧めるものを断るわけにもいかず、仕方なくFOXCONNを買って使うことにした。特にトラブルはなかったが、FOXCONNが気に入らないので、好きになれなかった。

そうこうしていると、部署のファイルサーバのPCが壊れて、それも中身を入れ換えることになった。それをチャンスと見て、次に買うのを自分用に、今使っているFOXCONNをファイルサーバに使うよう企み、鬼上司には知られないように気を付けて、直属の上司に買い換えをお願いした。

今わたしがメインPCで使っているのは、シリアルポートがオンボードのGIGABYTEマザーと、Core2 DuoのCPUだ。今どきのCore i7などではないが、それで構わない。CPUはIntelでもAMDでもいい。マザーボードがちゃんとしたところのであれば、それでいい。

別にFOXCONNに恨みはないが、FOXCONNのドライバダウンロードページなどはぐちゃぐちゃで、常に最新版がアップされているわけでもなく、実に使い勝手が悪い。どうしても安物というイメージも取れないため、使いたくないのだ。
PS3がFOXCONNなのはいいが、自分がPCがFOXCONNというのはやや抵抗がある。

そのFOXCONNが最近何かと騒がしい。FOXCONN(中国語名:富士康)のシンセンの工場で、中国人工員の自殺が相次いでいる。
今年に入ってから、 12人が工場内から飛び降り自殺を図り、2名の重傷を除き、10名が死亡した。

FOXCONNのシンセンの工場での自殺ブームは、昨年に起こったiPhone紛失事件が発端かも知れない。
25歳の男性従業員が新型iPhoneの試作機を紛失し、会社の公安部門(そんなもんがあること事態驚き)の人間に厳しい取り調べを受け、果ては暴行されるということがあった。直後にその従業員は自殺した。

FOXCONNのシンセンの工場では、工員たちは1日15時間の週6勤務で、月の残業も80時間以上という激務をこなしている。しかも、中国の物価があるとはいえ、1か月の給料が3500円ほど。工場敷地内の寮に住み、仕事をして、寝るだけ。
抑鬱状態になるのも仕方がないし、同じ仲間がどんどん自殺するのを見て、つられて自分も自殺をするという気持ちも分からないでもない。

少し前に、テレビでドン.キホーテの690円ジーンズの工場の様子を放送していた。
いかにして激安ジーンズを作るのかの紹介なのだが、工員たちの仕事はすさまじかった。ひたすらポケットだけを毎日12時間、何千個も縫うとか信じられん。中国人工員たちは、人間と言うよりは、むしろロボットのようであった。
その彼らも工場内の寮(4人部屋)に住み、工場内で食事をして、仕事をするという生活。日本の刑務所の方がもう少し快適かも知れない。

自殺者が相次ぐFOXCONNの工場は、それよりももっと厳しいに違いない。テレビの取材なんか受け入れられないくらいの労働環境なんじゃなかろうか。
中国国内では「ひとりっ子政策で、わがまま放題に育った工員たちが自殺している」などという見方があるが、工員の問題ではなく、どう考えても工場側の労働環境の問題だろう。

今や中国では労働者があまりまくっていて、一時期あったように簡単に仕事にありつけるという状況ではないらしい。おかげで、うちの会社の中国支社に勤めている中国人も、技術だけ学んでサヨナラという状況にはなっていない。

FOXCONNの工場で、人生に嫌気が差した中国人たちを気の毒に思う。程度の違いこそあれ、どこの国でも、下っ端で働く労働者は厳しい立場にいるのだ。
今日発売になったiPadが世間を賑わしているが、その裏でFOXCONNの工場で何人も自殺しているのかと思うと気持ち悪い。PS3 やWiiも同様だ。
明るい話題の中にも陰ありということか。